ふじみ野市プール事故

2013年8月9日(金)「小学校プールで足が排水口に吸着、小2女児けが」というニュースがありました。
長崎市の小学校のプールで、小学2年生の女の子が足を排水口に吸いこまれそうになって動けなくなり、40分後に救出された。
足に軽傷という内容でした。
水を循環させる排水口に足を吸い込まれ動けなくなり、排水をやめても足は排水口から外れなかったため、消防車のポンプでプールの水を抜き、40分後に救出されたということでした。


この記事を見て思い出される事故があります。
2006年(平成18年)7月31日 ふじみ野市の市営プールで小学2年生の女の子が流水プールの吸水口に吸い込まれ、約6時間後に約5メートル奥の水循環用パイプの中から救助され病院に運ばれたが死亡したという事故です。
吸水口から女の子の姿が見えない状態だったため、駆け付けた消防隊員は、ポンプ車でプール内の水を抜き取り、吸水口の奥にあるステンレスのパイプ(直径30センチ、長さ14メートル)を重機で壊して救助にあたり、約4時間後に、パイプの中で発見。
パイプ内は狭く、救助活動は約6時間に及んだという痛ましい事故でした。

事故発生直後の当時のニュース記事の内容をピックアップしますと
  • プールの管理は、ふじみ野市からさいたま市内の民間会社に委託されており、事故当時、敷地内には13人の監視員と看護師、現場責任者の計15人がいた。
    市職員は2日に1回巡回しているが、この日はいなかった。
  • 吸水口近くにいたのはアルバイト監視員2人。
    事故直前に遊泳客から「水底にふたが落ちている」と通報を受け、吸水口に近づかないよう客に口頭で注意を呼びかけたが、目前で事故は起きた。
  • 吸水口付近の水流は秒速2.4メートル。
    吸水口の入り口は直径約60センチの楕円(だえん)形。
    奥にいくほど細くなっている。
    女の子はパイプ内で起流ポンプのプロペラ付近に頭を向ける格好で発見された。
  • 吸水口は深さ約1メートルの壁面の中央部分にあり、さく状のステンレス製ふた(約60センチ四方)2枚で半分ずつふさいでいた。
    通常ふたはボルトで固定されているが、外れた1枚は針金で補修されたような形跡があった。
  • ふじみ野市は会見で「吸水口のふたが外れていることに気付いた監視員が修理しようと事務所に戻り、プールにいた人に周辺を泳がないよう注意を呼びかけていた」と事故当時の状況を説明した。
  • 同プールの関係者は「ふたが外れていると分かった時点で遊泳禁止など適切な安全確保がなされるべきだった」と話し、安全対策の不備を認めている。

この事故のニュースを見て、当筆には7年経った今でもある思いが残っています。
それは、このプール施設の管理に関することです。
以下管理関連の事項を当時のニュース記事からピックアップしてみます。

<事故後約2日間のニュース記事>
  • プールの管理を委託されていたビルメンテナンスT社が、プールに社員を派遣せず、監視員の募集や教育を下請け業者(K社)に丸投げしていたことが明らかになった。
  • ふじみ野市との委託契約約款では、下請けへの再委託には市の承諾が必要だが、T社は市に申請していなかった。
  • T社が作った「安全管理マニュアル」をK社が修正して使用。
    K社が派遣した現場責任者がマニュアルを持ち、内容は口頭でプールの監視員に伝えていた。
    今回のような事態に関する対応マニュアルは存在していなかった。
  • T社はプールのオープン前に流水プールを安全点検を実施し、A4判2枚の管理作業報告書を市に提出していたが、清掃のほかは起流ポンプ点検だけで、特記事項はなかった。
  • プールには事故当時、現場責任者と看護師、監視員13人の計15人がいたが、監視員はほとんど高校生のアルバイトだった。
  • 自治体職員による点検は、2日に1回実施されていた。
    点検内容は、管理会社の現場責任者からの聞き取り、全体の見回りなどをしていたという。
<事故後数日経ったニュース記事:列記>
  • K社は、T社から口頭で仕事を請け負い、社員が市の担当者に会う際はT社のスタッフと偽っていた。
    またK社の現場責任者も県警の調べに、脱落したふたについて「4カ所の固定穴全部を針金だけで固定していた」と話した。
  • K社社長によると、現場から6,7年前、「吸水口のねじ穴の位置がずれており、合うボルトがないので針金でとめた」と報告があった。
    社長は現場で対応するように指示。
    「うまく対応したと信じていた」といい、針金による固定というずさんな安全管理を事実上黙認していた。
  • K社は10数年前からこのプールの管理に携わってきたが、T社とは契約書などの書面も交わしていなかった。
    社員がT社と偽ったことについて、K社社長は「T社から仕事をいただいているので、それが下請の礼儀とマナーだと思った」と釈明した。
  • K社は、自社の管理マニュアル(8頁)を現場責任者だけに渡し、アルバイトの監視員らには口頭の説明だけだった。
    マニュアルも衛生管理や人工呼吸法などについてで、吸入口の危険性については「安全確認(防護設備)、流量など」との記述だけだった。
    K社社長は「ふたが外れたことは過去に一度もなく、吸入口への認識が足りなかった」と話した。
  • 県警によると、現場責任者はプール開きの前に、古くなった針金を4箇所とも新品に交換したと説明。
    実況見分では、壁面の一箇所に残っていた針金は、ほどけたのではなく、切れた状態だったという。
  • プールにある6枚のふたの固定個所計24か所のうち、ボルトで止めていたのは6か所だけだったことが埼玉県警の調べでわかった。
    3か所にはボルトも針金もなかった。
    調べによると、女の子が吸い込まれた吸水口では、1枚が四隅すべてをボルトで固定されていたが、外れた1枚はすべて針金で代用されてい た。
    外れたふたを固定していた針金は直径1.8ミリで、黒い塩化ビニールでコーティングされていたが、針金はさびて千切れていた。
  • プールにある6枚のふたの固定個所計24か所のうち、ボルトで止めていたのは6か所だけだったことが埼玉県警の調べでわかった。
    3か所にはボルトも針金も なかった。
    調べによると、女の子が吸い込まれた吸水口では、1枚が四隅すべてをボルトで固定されていたが、外れた1枚はすべて針金で代用されていた。
    外れたふたを固定していた針金は直径1.8ミリで、黒い塩化ビニールでコーティングされていたが、針金はさびて千切れていた。
  • プール管理を受注したT社と下請のK社は、市にボルト補充などの要望をせず、職員が巡回点検していた市も針金の固定に気付かなかった。
    県警は、業者が安全管理を怠り、市も事故防止のための指導を徹底しなかった疑いがあるとみて関係者の事情聴取を進めるとともに、近く業務上過失致死容疑で家宅捜索する方 針。
  • 吸水口は今シーズンの営業開始以来、1度も点検されていなかったことが、埼玉県警の調べでわかった。
    同プールの管理マニュアルでは、現場責任者は吸水口を 毎日点検することが定められており、市から運営を委託されたT社と下請けのK社は、これを怠っていたことになる。
    県警は、ずさんな管理体制が事故を招いたとの見方を強め、業務上過失致死容疑で捜査を進めている。
  • 昨年まで3年間監視員としてアルバイトをしていた同市の女性会社員は、流水プールの仕組みや吸水口の危険性について管理業者から説明を全く受けていなかったと証言した。
    この女性によると、監視員はアルバイトの高校生が主体。
    ほとんど泳げない人もおり、K社はアルバイト採用の際、水泳の経験を問題にしていなかったという。
  • 元監視員の男性と女性は、講習会などの受講歴は問われず「業務マニュアルは見たことがない」と話す。
    ところが、市がT社に出した業務仕様書では、監視員は日本赤十字社や日本水泳連盟などの講習会の修了者などを配置することになっていた。
  • また、3年間アルバイトをしていた女性は、面接では水泳の技能については一切聞かれず、仕事のやり方も「友達から聞いた。会社から説明はなかった」という。
    講習会もなく「『何かあったら現場責任者に連絡して指示を待て』としか言われなかった」と話した。
  • ふじみ野市は、開業前点検でもプール内まで調べず、吸水口のふたの針金固定を見逃していたことも判明。
  • 市は、文部科学省が吸水口に事故防止のため、ふたなどを二重に設置するよう通知していたにもかかわらず見落とし、点検や改善を怠っていたことがわかった。

文科省通知は「排(環)水口には堅固なふたや金網を設けてボルトなどで固定させるとともに、吸い込み防止金具などを設置すること」というもの。
1999 年6月、「学校水泳プールの安全管理について」と題し、体育局長名で全国都道府県知事らに出されたが、同年8月には「地域のプール」も対象に加え、翌年か らは毎年5月の通知に「学校以外のプールについても」という文言が加わった。

  • プール運営を受託したT社が、監視員が安全講習などを受講したことを証明する「資格調査書」を提出せず、今年度の業務を落札していたことがわかった。
    調査書は現在も提出されていない。
    市と同社の委託契約書では、業務受託者が日本赤十字社や日本水泳連盟の講習を受講することを義務づけている。
    調査書は昨年も未提出で、入札を担当する同市管財課に連絡もされておらず、同課は「未提出がわかっていれば入札には参加させなかった可能性がある」としている。
    同市教委の育次長は「市教委の手落ち」として、ミスを認めている。
  • プールの水を抜いて行う開業前の清掃点検の際、担当職員が1999年から一度もプールの水槽内に入っていなかったことがわかった。
    結果的に、職員は吸水口のふたをボルトの代わりに針金で固定していたことを見逃しており、プールの安全管理が業者任せだったことが改めて浮き彫りになった。
    市が担当職員に聞き取り調査し、判明した。
    今年もプール開き前に職員が清掃点検に立ち会ったが、水槽内は調べなかったという。
  • 合併前の旧大井町職員が行っていたプールへの巡回は、売上金の回収が主な目的で、設備の安全点検はほとんど行っていなかったことが元職員の証言で明らかになった。
    巡回の際に点検すべき設備などを定めたマニュアルもなかったといい、安全点検を管理業者任せにした行政側の安全意識の欠如が改めて浮き彫りになった。

以上、管理面において、詳細が明らかになるにつれその杜撰さが浮き彫りになりました。
「受託専門業者の能力」「発注者の業者選定能力 業務指導能力」等々いろいろと考えさせられる事故です。
今日では、リスクアセスメントをどれだけ深く実施できるかという課題にもつながります。
発注者も受託者も、この事故の教訓を強く認識することが求められています。

追記
【埼玉・プール事故、市職員ら6人を月内にも書類送検】
埼玉県警は、市職員と管理業者の計6人を業務上過失致死の疑いで、地検に書類送検する方針を固めた。
書類送検されるのは、市営プールを所管する市教委の体育課長と同課係長、同課職員。
運営業務を委託されたT社の社長、下請けのK社の社長と同社社員の現場責任者。
プールの運営は、T社が市に無断でK社に「丸投げ」しており、市とT社の事故責任を問えるかが焦点となっていた。
県警は、体育課の業務に「業者の指導・管理」が含まれることから、安全管理責任は市にもあると判断。
T社も、安全管理義務の放棄には当たらないとしている。(読売新聞)2006年11月3日