組織の経営 “まずい学” ② 経費削減

「組織行動の“まずい!!”学 どうして失敗がくりかえすのか」
と題して警察学校主任教授の樋口晴彦先生が全国産業安全大会で講演された内容について雑誌「安全と健康」誌より引用させて頂きます。

2回目は「経費削減」についてのお話です。
これも筆者にとっては思い当たる点が多々あります。
「B電力のM原子力発電所での配管破損事故」を元に話されています。

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B電力のM原子力発電所3号機で配管が破損して、高温の冷却水が噴出しました。
冷却水といっても温度は140度です。
管の中では液体ですが、噴出した途端に蒸気に変わります。
その結果、屋内にいた協力会社の作業員11人が被災、そのうち5人が死亡しました。

技術基準では、この部分の配管には4.7ミリ以上の肉厚、配管の厚さが必要とされていました。
しかし、事故後に計測してみますと、問題の部分はわずか0.4ミリと紙のように薄くなっていたのです。

この箇所の減肉が予想外に速いペースだったわけではありません。
過去のデータから十分に予想できる範囲内にとどまっていました。
それではどうして事故が起きたのでしょうか。
問題の箇所がケアレスミスによつて点検リストから漏れ、誰も肉厚を測っていなかったのです。

事故が発生した2004年のB電力の修繕費は1,858億円です。
その5年前の1999年の修繕費は3,472億円でした。
つまり、5年間でB電力の修繕費は半減しています。

基本的に修繕費は、固定費とみなされます。
ほかの条件が変わらなければ、毎年ほぼ同じ金額が出ていくのが当たり前です。
この間、B電力が発電所を何力所も閉鎖したという事実はないので、修繕費がこれだけ減るのは普通ではありません。

この同じ5年間で、B電力の当期純利益は右肩上がりです。
しかし、この修繕費削減で浮いた分を除くと、逆に業績は下降してしまいます。
言い換えれば、この5年間におけるB電力の業績向上は、修繕費の削減によって達成されたことになります。

ある年に修繕費を1割削減しても、すぐに現場の安全レベルががくんと落ちるということはありません。
しかし、毎年1割ずつ削減していけば、 5年間で半額になります。
そのタメージは、現場にどんどん蓄積されていきます。

また、B電力では発電所の配管管理のための管理指針を自ら定めていました。
その管理指針には、余寿命2年以下、あと2年以上使ったら配管の厚さが基準以下になる配管を交換すると規定していました。
つまり、安全余裕を2年間見込んでいたということです。
しかし、その管理指針とは裏腹に、配管の交換を先送りしていたケースが散見されるのです。
B電力が自ら制定した管理指針を守っていなかったのは何故でしょうか。

原子力利用率という数字があります。
これは、発電所の稼働率に相当するものです。
原子力発電所は、定常運転を長く続ければ続けるほど、すなわち原子力利用率が高ければ高いほど効率が上がって、電力会社の収益が上がります。

この原子力利用率を高めるためには、原発を停止している期間をできるだけ短くすればよい。
それでは、どうすれば停止期間を短くできるでしょうか。

原発の停止期間には、プラントの点検や部品の交換が行われます。
したがって、時間のかかる修理を先送りすれば、停止期間を短くできます。
つまり、原子力利用率を上げるために一番手っ取り早い方法が、修理の先送りなのです。
原子力発電所は、かなりの安全余裕を見込んで設計されていますから、1回や2回先送りしても実害はないでしょう。
しかし、そのように自己正当化する心理それ自体が、安全文化の対極に位置し、非常に危険なものだと言わざるを得ません。

以上のように、B電力では修繕費を削減したり、修理を先送りしたりして業績を向上させました。
しかし、そのツケとして回ってきたのが今回の事故です。
さらにその背景には、社内の安全文化の劣化という大きな問題が横たわっているのです。

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よく行われていると思われる経費削減策です
それが安全管理が特に重要である原子力発電所で行われていたというのが問題です
長く大きな事故が起きない状態が続けばスキが出るということでしょうか?

ここ20年来、経費削減、人員削減が一般的経営手法として行われてきました。
もちろん必要な対策もあったでしょう。またやむにやまれずという場合もあったと思われます。
しかし、ムリな或いは誤った経費削減、人員削減をしてしまって、今人材不足で困っている企業もあるかと思います

短期的な業績の向上にばかり熱心になると、その一方で長期的な課題である、安全性や道徳性がおろそかになる面があります。
そして人材が失われます。

「花の建設 涙の保全」という言葉があるそうですが、根源は同じでしょう。

長く同じ事をやっていると、安易に流れるのが人間です。
人は本質的に誤りを犯す面を持っています(どんなに注意していてもミスを犯すという特性を内包しています)

PDCAの管理サイクルが教えられていますが
チェックは経営トップみずからが汗を流して苦労する(それが経営トップの仕事)。
襟を正してこれが出来ている企業が安全文化は培われている健全な企業ということになるのでしょうか。
この努力が、社員を悪者にしないことにつながります。