静岡・電気柵感電死亡事故について

平成27年(2015)7月20日
静岡県西伊豆町において、動物よけの電気柵で2人が死亡し、5人が感電負傷する事故が発生しました。
そして18日後、この電気柵を設置した人が自殺したという新聞記事がありました。

何故に、このような結果に?
再認識させられた内容も多く
いろいろな複雑な思いが出てきます。

新聞記事等をもとに事故に関する記事を整理してみますと

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◆事故の経緯及び被害状況

  • 静岡県西伊豆町一色にある仁科川の支流で7月19日に感電事故発生。
  • 被災状況は、2名死亡、5名負傷(指断裂、大やけど)
    川遊びをしていた3人がまず電気柵に接触。
    悲鳴に気付き、駆け付け人が川に入って、次々と感電した。
    司法解剖の結果、死亡した2人の死因は、電気が体内を流れたことによる感電死と判明。
    2人の左の手のひらには、いずれも重いやけどが確認されており、電線をつかんだ際に感電したとみられる。
    死亡した2人以外は、指断裂、大やけど等感電負傷を負っている。
  • 原因は、獣害対策として設置された電気柵に触れたため。
    静岡県警は、男児が電気柵に接触した際に電線の一部が断線して川につかり、助けに向かった人々が次々に感電したとみて調べている。

 

◆事故を生起した電気柵(事故起因物)及びその背景等

  • 事故を起こした電気柵は、川岸にあるアジサイの花壇を獣害から守るために近隣の住民男性が設置し、対岸にある農機具小屋から電線を引いていた。
  • 電気柵の電源は、近くにある農機具小屋の家庭用コンセント(電圧100ボルト)だったことも判明。
  • 事故後に現場に入った人が「水の中でピリピリした」と話しており、事故時も漏電していた可能性が高いことなどから、県警は安全対策に不備があったとみて業務上過失致死傷容疑での立件も視野に捜査を行う方針。
  • 電気柵を設置した男性が、電圧を上げるための昇圧機を取り付けるなどして、電気柵を自作していたことが捜査関係者への取材で分かった。
    —-不正に改造した可能性もある電気柵については、元町企業課の技師で電気に詳しい男性の手製で、「1、2年ほど前に設置したようだ」と家族が説明した。 という記事もある。
  • 関係者によれば、男性は以前、家電販売店で勤務した経験があり、電気設備の知識があった。
    男性は「自分の施工ミスだった」と周囲に話している。
  • 電気柵は市販品ではなく、男性が自作した物
    短い間隔で電気を流すパルスタイプではなく、電気を流し続けるものだった。
  • 経済産業省電力安全課によると、昇圧器を設置したことで、電気柵が電源を取っていた家庭用コンセント(100ボルト)の電圧が440ボルトに引き上げられていたという。
  • 電気保安協会関係者によると、水気があると(濡れると)、皮膚の電気抵抗が大幅に下がるため、100ボルトの電気に接した場合は、ショック死する可能性があるという。
  • 電気事業法では「危険表示」の設置、30ボルト以上の電源から電気をひく場合は、漏電遮断器の設置が義務づけられている。
         (「電気設備の技術基準の解釈」第224条)
  • 静岡県警によれば、男性はコンセントの抜き差しで電気柵の電源を切り替えていたといい、普段は夜間だけ通電させていたが、事故当日は、電源を切り忘れた可能性が高いという。
  • 県警は21日に現場検証を実施
    柵の一部が壊れて、電線が約1.2mにわたって川に漬かっていることが判明!
    設置者立ち会いの下、通電実験で漏電が起きても電気が遮断されないことを確認した。
  • 下田署は23日、電気柵の設置男性が使用していた柵の電線部分について、総延長が約300メートルだったと発表した。
    電源のある農機具小屋から約25メートル離れた川向かいのアジサイの周辺だけでなく、同じ小屋から距離のある別の畑にも電気を送るために、より強い電流を流す意図があったとみられる。
    今回の事故では男性が電気柵に変圧器を使うことで400ボルト以上に昇圧していたことが分かっている。
    これまでの捜査で同署は、男性が電源としていた小屋の家庭用コンセント(100ボルト)と柵との間には、本来必要とされる電流制御装置や、漏電遮断器が設置されていなかった、と結論づけた。

 

◆事故現場周辺状況等

  • 現場周辺では、獣害対策として電気柵を設置する土地の所有者が多い。
    近くの人によると、「この辺りでは、シカやイノシシから作物を守るため、半数以上の人が電気柵を付けている」と説明する。
     また、「地元の人たちはビリッとなるから、柵には絶対に近づかないのに」と話していた。
  • これまではこういった事故はなかったということで、地域の人たちも大きなショックを受けている。

 

◆事故の背景等

<農作物などの鳥獣被害(獣害)>
 農林水産省によると、野生鳥獣による農作物の被害額は調査を始めた平成11年度から200億円前後で推移。
 平成25年度は199億円に上っており、そのうちの7割がシカ、イノシシ、サルによるもの。
 被害額の大きい都道府県は北海道、福岡県、長野県、宮崎県、兵庫県など。静岡県では年間4億円以上に上る。

<因みに、徳島県内の状況について、徳島新聞によると>

  • 鳥獣害対策用の電気柵は、徳島県内でも設置する農家が増えている。
    国や県の補助で設置された電気柵は、2014年度末の時点で総延長627.2km
  • 山間部ばかりでなく、平野部の通学路沿いなど、子供が近づきやすい場所にも設けられている。
  • 設置後の点検は設置者に委ねられている。
  • 2009年8月に淡路で感電死事故が発生している。
  • 徳島新聞2015/08/11
    徳島県が実施した鳥獣害対策用電気柵の実態調査で、電気柵は県内19市町村に1190カ所あり、うち7市町村の91カ所で危険表示がないなどの安全確保策が不十分だったことが分かった。
    安全表示がなかった91カ所
    人が立ち入りやすい場所で、30ボルト以上の電源から電気を引きながら漏電遮断器がなかったのが33カ所。
    いずれにも該当したのが11カ所あった。
       (合わせて44カ所の設置場では漏電遮断器がなかった! 4%弱)
    家庭用コンセントから直接つなぐなどの違法な自作の電気柵はなかった。

◆設置者の悲報

  • 8月8日、電気柵設置の男性が自殺していたことが新聞記事に報じられました。

 

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この記事によりいろいろな課題が再認識されます。(過去の災害が繰り返されています)

*悲鳴に気付き、駆け付け人が川に入って、次々と感電した。

  • 課電された電線が川に漬かっていた!
  • 漏電して電気が流れていた川に入って感電!
    —-ガス充満カ所での被災者救助等でも課題ですが、救助者が被災するというパターンが起きてしまった。

*設置(工事)上の問題

  • 電気柵は電気事業法の下に、省令、「電気設備の技術基準の解釈」において定められているようですが、その設置、管理が一般の人(電気に関する素人)に委ねられているということ。
  • 100ボルトコンセント電源、440ボルトに昇圧、周囲に水気! 感電して当たり前の状況を素人により設定されていたことになる!
    —-生半可な知識はこわい! その為に電気工事士等の免許制度があるのだが--
  • 300mも配線されていた。
    被災現場から電源カ所(開閉器)まで25m。電源を切るにも切れない状況!
    しかも、現場の状況を知らない者にとってはなおさらである!
  • 新聞記事等によると「電気柵はホームセンターなどでセット3万円程度で購入でき、手軽に設置することが可能。
    漏電遮断器のほか、一定の間隔で瞬間的に電気を流すパルス発生装置が付いており、触れてもショックを受けるだけで死亡する危険性は低い。」とされているとのことであるが、少しの知識(欠陥知識)を持っている人に改造されたのではどうしようもない!

*運用管理上の問題

  • 設置後の点検は設置者に委ねられている。
  • 電気柵設置者の妻の話
    「夫はその日だけ電源を切り忘れた。いつもは毎朝切っている」
    —-素人の任意性に管理が任されている状況!
    —-そして  “人は間違いをおかすもの!”
  • 周囲に注意を促す危険表示も設置されていなかった
  • 事故現場は生い茂った草で柵が隠れたところもあり、極めて危険な状態であった。

 

*一般の人の対応(危険感受性)

  • ビリッとくるから近づかないように!
    —-以前から認知されていた!
    —-これを聞いただけで「こわい 何とかしなければ!」と思うが--。
    —-周囲の環境条件等(湿潤状態等)により感電の危険性は十分に予知できる内容である!
  • これまではこういった事故はなかったということで、地域の人たちも大きなショックを受けている。
    —-それは運が良かっただけ!
  • 2009年8月に淡路で感電死事故が発生している。
    —-やはり夏場に多いのか

 

*(無知過失による悪意でない)加害者へのサポートの問題

  • 事故後、柵を設置した男性が新聞取材で「(亡くなった人に)本当に申し訳ない。死んでわびたい気持ち」と事故後の心境を語っていた。
    男性は事故で心身が疲労し、ここ数日は体調が優れない状況が続いたもよう。
  • 事故後「死んでわびたい」と自殺をほのめかしていた
    —-周囲の人は防ぎ得なかったのか?!
  • 福岡の医院火災事故(2013年10月 福岡市博多区住吉の医院で、入院患者ら10人が一酸化炭素中毒で死亡した火災事故)の当事者となった院長の言葉を思い出します。
    「すみません。自分、患者さんを殺しました。」
    —-無知は許されない。思わぬ不幸を被害者、加害者双方にもたらします。

 

大勢の人出の中で起きたガソリン缶爆発事故(2013年8月福知山市花火大会露店からの爆発事故)のように、
今後、電気用品安全法、電気事業法等の関係法規制が見直されるのではないかと思われますが、
“どこにでもある施設” “法規上許されていることへの一抹の不安”
忘れ去っていたことを思い起こされる事故でありました。

 


一般の電気設備、その規模容量等により、電気用品安全法によるPSEマーク製品・部品の使用、電気工事士法による電気工事の制限、電気事業法による電気主任技術者の保安管理というように規制されています。
今回の事故は、これらの法規の除外領域(つまり低い電圧、小規模の施設等)での事故と考えますが、危険性の本質(電気の危険性)は潜在しているのです。

因みに

  • 水気のある場所での安全電圧(交流)は、電気協会の低圧電路地絡保護指針によりますと
    人体の大部分が水中にある状態で2.5ボルト
    人体が著しく濡れている状態、金属等の構造物に人体の一部が常時触れている状態では25ボルト
    とされています。
    昔の電気工事関係者の間では、死に至る電圧を「42ボルト(死にボルト)」と言われていたと聞いたことがあります。
  • 電流が心臓を通れば心室細動(心臓のけいれん)が起こり、死に至ります。
    その限界値は、電流と通過時間に関係し、60Hzで100mA・sec(ミリアンペア・秒)程度だと認識しています。
    (直流・交流の別、交流においては周波数別、男女別等でいろいろな実験値が報告されています)
  • 電気による感電負傷は、熱傷、内部組織の変質・破壊、内臓障害等身体内部に及びます。
    呼吸中枢に電気が流れると、呼吸停止も生起します。