JR新幹線台車亀裂事故(20171211)に思うこと

JR東日本の架線断線事故(12月16日)が取り上げられた翌日
新幹線では初めての重大インシデントとして「新幹線台車亀裂事故」という報道が流れました。

※インシデントとは、事故などの危難が発生する恐れのある事態を言い、ISO22300によると「中断・阻害、損失、緊急事態、危機になり得るまたはそれらを引き起こし得る状況」と定義されています。
アクシデント、インシデント、ペリル等々外国にはいろいろな事故に対する認識パターンがあるようですが、日本語に訳すと「事故」となるそうです。
この記事でも「事故」と記していきます。

交通インフラの事故はいったん発生すると、多数の犠牲者が出た歴史があります。
日本の鉄道事故に絞っても
「常磐線三河島での列車三重衝突事故1962」「JR福知山線列車脱線事故2005」をはじめ、「余部鉄橋列車脱落事故1986」「桜木町の電車火災事故1951」「北陸トンネル列車火災事故1972」「信楽高原鉄道列車正面衝突1991」等々調べればいくらでも出てきます。
そして、多くの犠牲者が出ています。
今回の事故も、停止時期を一歩誤れば、このような事態となった可能性が大きかったということです。

以下記事をPick Upしてみました


【新幹線 台車は交換も 列車はホームに止まったまま】
(12月17日 7時17分 NHK)

運行中の東海道・山陽新幹線の台車に亀裂が見つかったトラブルで、この列車は7日目の17日になっても名古屋駅のホームに止まったままとなっています。
復旧に向けた作業が進められていますが、JR東海によりますと、列車を別の場所に移動させるのは18日以降になる見通しだということです。
今月11日、博多から東京に向かっていた東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」の台車に亀裂や油漏れが見つかり、国の運輸安全委員会は重大な事故につながるおそれがあったとして、新幹線では初めて重大インシデントに認定しました。
亀裂が見つかった13号車の台車はすでに取り外され、16日夜のうちに福岡県内の車両基地に移されていて、今後、車両を所有するJR西日本が損傷の状況や詳しい原因を調べることにしています。
一方、トラブルが起きた列車は7日目の17日になっても依然、名古屋駅のホームに止まったままとなっています。
復旧に向けた作業が進められる中、JR東海は、17日にも列車をホームから別の場所に移動させる予定でしたが、18日以降に延期したということです。
この影響で、名古屋を経由して東京方面に向かう上りの新幹線は17日も、最大10分程度の遅れが出る見通しです。
JRは、列車をホームから移動させるための作業を急ぐことにしています。

【東海道・山陽新幹線 台車に亀裂 あと3センチで破断のおそれ】
(12月19日 18時07分 NHK)
今月11日、東海道・山陽新幹線の台車に亀裂が見つかった問題で、JR西日本が19日記者会見を開き、亀裂の長さはおよそ14センチに達し、あと3センチで破断するおそれがあったことを明らかにしました。
JR西日本は、「走行中に破断すれば、脱線など大きな事故に至った可能性があった」という認識を示し、詳しい原因を調べています。
今月11日、博多から東京に向かっていたJR西日本が管理する東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」の台車に亀裂や油漏れが見つかり、国の運輸安全委員会は脱線など重大な事故につながるおそれがあったとして、新幹線では初めて、「重大インシデント」に認定して調査しています。
これについてJR西日本は19日記者会見を開き、吉江則彦副社長が「新幹線の安全性に対する信頼を裏切るものであり、深くおわび申し上げます」と謝罪しました。
そのうえでJR西日本は、確認された異常について、初めて写真を公開して説明し、台車を支える「側バリ」と呼ばれる厚さ8ミリの鋼材に入った亀裂の長さは、側面がおよそ14センチあり、あと3センチで最上部に達していたことを明らかにしました。
また、側バリの底の面の長さは16センチで、亀裂はそのすべてに達していたということです。
これについてJR西日本は、「走行中に破断するおそれがあった。破断すれば、脱線など大きな事故に至った可能性があった」という認識を示しました。
また、乗務員が異臭などに気付いてから、3時間にわたって乗客を乗せたまま運行していたことについては、「異常を感じたにもかかわらず、走行を継続させたことを重く受け止めている」と話しました。
そのうえで、今後の安全対策としては、異常があった場合にはちゅうちょ無く列車を止めて車両を調査するなど、社員教育を徹底することや、台車に異常が発生したことをセンサーなどで感知する方法を検討するとしています。
一方で、亀裂などが入った原因についてはわかっておらず、JR西日本は問題の台車を福岡県の車両所に運び込んで、詳しく調べています。

JR西日本は19日の記者会見で、台車の亀裂などの写真を初めて公開しました。
写真のうち、亀裂を撮影したものは、台車を支える「側バリ」と呼ばれる側面の鋼材と、走行時の衝撃を吸収する「軸バネ」と呼ばれる部品との接合部の近くで、亀裂が確認できます。
JR西日本によりますと亀裂の長さは縦およそ14センチあり、側バリの縦方向の長さは17センチだったため、あと3センチで亀裂が最上部まで達し破断するおそれがあったということです。
また、側バリの底の面の長さは16センチで、亀裂はそのすべてに達していたということです。
このほかの写真では、モーターの回転を車輪に伝える「継手」と呼ばれる部品に焦げたような跡が見えるほか、継手と別の部品のつなぎ目が斜めにゆがんでいる様子も確認できます。
JR西日本によりますと、側バリに亀裂が入ったことで台車のバランスが崩れ、ゆがんだ可能性があるということです。

今回のトラブルについて国の運輸安全委員会は、新幹線では初めて深刻な事故につながるおそれがあったとして重大インシデントに認定し、これまでに亀裂ができた車両の調査や運行に関わった乗務員の聞き取りなどを行い、原因の究明を進めています。
運輸安全委員会の中橋和博委員長は19日の定例の記者会見で、台車の亀裂の長さはおよそ14センチに達していたことを明らかにしました。
そのうえで、「一般論としては、亀裂は小さな起点が繰り返し使用するうちに広がるもので、1回の走行でゼロから進行することは考えにくい。なぜ亀裂が生じ検査で見つけることができなかったのか、設計、製造、点検のすべての工程について検討を進めていく」と述べました。
また、異常に気付いてからおよそ3時間にわたって運行が続けられたことについて、「少なくとも異音なり異臭がした段階で止めておくべきだったと思う。運行の判断について、安全にかかわる問題点がなかったかもきちんと調査していきたい」と述べました。

【JR新幹線亀裂事故:会社側の対応について】
--新幹線に亀裂 保守担当社員が「列車止め調査必要」と認識
(12月20日 5時06分 NHK)
博多から東京に向かっていた東海道・山陽新幹線の台車に亀裂が見つかった問題で、これまでの社内調査に対し、岡山駅から乗り込んだ保守担当の社員が「列車を止めて調査する必要があると思った」との認識を示していたことがわかりました。
しかし、名古屋駅に到着するまで詳しい調査は行われず、JR西日本は当時の車掌や指令員などから話を聞いて、事実関係を調査しています。
今月11日、博多から東京に向かっていた東海道・山陽新幹線の台車に亀裂が見つかった問題では、小倉駅で乗務員が異臭に気付いたあと、岡山駅から保守担当の社員3人が乗り込んで異音を確認していました。
しかし、名古屋駅に到着するまで列車を止めて車両を調査することはありませんでした。
JR西日本は、19日の記者会見で、保守担当の社員が社内の聞き取り調査に対し、「列車を止めて調査する必要があると思った」との認識を示していたことを明らかにしました。
しかし、保守担当の社員や列車の車掌、それに、東京の指令所との間でやり取りした結果、走行に支障はないと判断され、運転を継続していたということです。
JR西日本は引き続き、車掌や指令員などから話を聞いて事実関係を調査しています。
JR西日本は「異常を感じたにもかかわらず、走行を継続させたことを重く受け止めている。異常があった場合にはちゅうちょなく列車を止めて車両を調査するなど、社員教育を徹底したい」としています。


『止めるということを徹底させる』という会社側の会見です。
しかし、現場が止めるという判断(乗客をはじめ、多くの人に影響を与える判断)を容易に決意できるかどうか?
「不確定でも“危険”を予期したときに“事前に止める”」ということについての(責任の回避の)承認を事前に明示していたのか?
(福知山線事故等をもとに、JR西日本では基準として明示されていたと思いますが--)
後になって「止めていたらよかった」というような説明(釈明)がされがちですが、その承認が確約されていなければ、当事者は周囲からの避難等を考えて、(よほどの確証がない限り)止めることを躊躇するはずです。


【新幹線亀裂問題 JR西社長「システム全体に問題あった」】
(12月27日 18時31分 NHK)
東海道・山陽新幹線の台車に亀裂が見つかった問題で、走行中に複数の異常を確認していたにもかかわらず走行を続けたことについて、JR西日本の来島達夫社長らが、当時の詳しい状況を説明し、「現場だけでなく指令も含めた新幹線のシステム全体に問題があった」との認識を示しました。
今月11日博多から東京に向かっていた東海道・山陽新幹線の車両の台車に亀裂などが見つかった問題では、出発直後から乗務員らが異音や異臭を確認していたほか、保守担当の社員が点検したほうがいいと認識していたにもかかららず走行を続けていたことが明らかになっています。
JR西日本は、27日の記者会見で、当時の詳しい状況を説明しました。
それによりますと、岡山駅から乗り込んだ保守担当の社員が、異音などを確認し、「床下を点検したい」などと、電話で東京の指令員に伝えましたが、「走行に支障はあるか」と聞かれたのに対し、「そこまでは行かない。見ていないので、現象がわからない」と答えたため、指令員は、走行に支障がないと判断したということです。
その後この指令員は、保守担当の社員が新大阪駅で床下の点検をするよう電話で提案してきた際、近くにいた別の指令員から報告を求められていて、受話器から耳から外していたため、提案の内容が聞こえていなかったということです。
このため指令員は、本当に危険性があり、点検が必要ならば保守担当の社員がはっきり言ってくると思い続け、走行に支障は無いと考えていたということです。
さらに新大阪駅で行われたJR東海への引き継ぎでは、「異音などはあったが、走行に支障が無く運行継続」と伝えていたということです。
JR西日本は、今回明らかになった重大な課題として、保守担当の社員と指令員の間で認識のずれがあり、運行停止の判断基準もあいまいだったことに加え、JR東海と協議せず運行を引き継ぐなど責任をもって運行管理を引き継ぐ意識が不十分だったこと、それに保守担当の社員と指令員は、運行停止の判断を相互に依存している状況だったことを挙げています。
来島社長は、「現場だけでなく指令も含めた新幹線のシステム全体に問題があった。リスクがあるという前提で、原点に返り、組織全体でリスク管理を進め信頼回復に努めていきたい」と述べました。

【新幹線亀裂問題 運行停止までの詳細なやり取りは】
(12月27日 19時30分 NHK)

JR西日本の調査でこれまでに明らかになった、博多発・東京行きの東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」が運行停止に至った今月11日の経緯と、乗務員や保守担当者、東京の指令員のやり取りは以下のとおりです。

【午後1時33分】
「のぞみ34号」が3人の車掌と3人のパーサーの合わせて6人の乗務員で博多駅を出発。

【午後1時35分】
車掌の1人が13号車のデッキ付近で甲高い異音を感知。
ほかの2人の車掌は通常と変わらない音だと感じたとしている。

【午後1時50分】
小倉駅を出発。
車掌の1人とパーサーの2人が7号車と8号車付近で「焦げたにおい」や、「鉄を焼いたようなにおい」を感じたほか、別の車掌が引き続き13号車のデッキ付近で、甲高い異音を感知。

【午後2時18分】
車掌が東京の指令員に対し、7号車と8号車から異臭がしていることを報告。
指令員からは乗客からの申告があるか、ほかに異常はないかを確認され、車掌は申告やほかの異常はないと伝える。
その後も車掌3人は車内を点検し、11号車や8号車などで異臭を感じたとしている。
この際、指令員は車両の保守担当の社員に岡山駅から乗車するよう指示。

【午後2時30分】
広島駅を出発。
これ以降、13号車の異音や11号車の異臭がまだあるか車掌が確認に向かったものの、いずれも気にするほどでないと感じたとしている。

【午後2時59分】
福山駅を出発。
パーサー2人が7号車と8号車からにおいを感じていたほか、車掌の1人は13号車と14号車の客室内で異音を確認し、これまでより大きく高い音になっていると感じたとしている。
さらに、広島駅から乗車した別の車掌は、10号車で焦げ臭いにおいを感じたほか、乗客からは13号車で異臭ともやがあると申告があった。
この車掌が13号車を確認したところ、客室内全体がかすんでいいて、焦げ臭いにおいを感じた。
別の車掌も13号車にもやがかかっていることや、異音が大きくなっていること、さらに振動を感じたとしている。
その後、13号車のもやはなくなったのが確認された。

※この時点で異常が明確になっている!

【午後3時15分】
岡山駅に到着する直前、車掌は指令員と連絡を取ったものの、もやに意識が集中し、異音が続いていることについては報告せず。
その後、岡山駅では指令員の指示を受けた保守担当の社員3人が乗車。
13号車の洗面所付近で床下から、びりびりと伝わるような振動を確認した。
さらに13号車にいたパーサーの1人は、客室内でうっすらかげるようなもやや、床下からドンドンとうるさく感じるくらい大きな異音を確認。

※異常を確認しながら止められない状況!

【午後3時31分】
新神戸駅に向かう途中、保守担当の社員は「音が激しい」、「床下を点検したい」と指令員に伝達。
指令員は「走行に支障はあるか」と尋ね、保守担当の社員は「そこまでは行かないと思う。見ていないので現象がわからない」と返答した。
この時、指令員は「走行に支障はない」と判断した。

※「走行に支障はないか?」という質問は「走行を前提とした意向」に基づく言葉である。

保守担当の社員は、指令員に対して「安全をとって新大阪で床下をやろうか」と提案。
しかしこの会話の際、指令員は別の指令員から状況の報告を求められて、耳から受話器を離してしまっていたため、保守担当社員の提案は聞けていなかったとしている。
さらに、この時に指令員は、保守担当社員に対して「ちょっと待ってください」と伝えた。
指令員は会話を待つために言ったが、別の保守担当社員は床下点検の準備をするため待つように言われたと認識していた。
床下点検を提案した保守担当者の社員は、その後指令員から返答がないことから、不具合を確かめるために、特定のモーターを使わないようにする「モーター開放」の処置を依頼した。

※微妙な会話間の認識のずれの発生!
確認ワードを会話中に含める等の「安全確認型のコミュニケーション」の検討が必要となるのでは?!

【午後3時38分】
これ以降、依頼を受けた指令員は「モーター開放」の実施を決め、JR東海の指令員に対しても「異音がするので13号車のモーター開放をする」と伝えたものの、運転を見合わせる協議は行わず。

【午後3時48分】
新神戸駅に到着すると、保守担当の社員2人が車両の外に出て、13号車とホームの間を懐中電灯で照らし、目視による確認を実施。
異常は感じなかったとしている。

【午後3時55分】
新神戸駅を出発して以降、13号車でモーター開放をして音を確認した保守担当の社員は「音に変化がなく、台車回りではないか」と指令員に報告。
指令員が「走行に支障はないか」聞いたところ、保守担当の社員は「走行に異常はないと言い切れない」、「音が変わらず通常と違う状態であることは間違いない」と回答。
この際、指令員は「保守担当の社員は車両の専門家であり、本当に危険性があったり、点検が必要であったりすればはっきり言ってくる」と思い、走行に支障はないという認識を持ち続けていたとしている。

※司令員の「定常走行優先」強い思いが専門家任せ(ある意味責任転嫁)の判断基準となっているのでは--!

さらに指令員は、JR東海の指令員に対して、保守担当の社員からモーター開放をしても変化はないことから、「異常なし」の報告があったと伝達。
一方で保守担当の社員は、床下点検などについて「指令員が調整してくれている」と思っていたとしている。

【午後4時1分】
新大阪駅に到着。
JR西日本の社員はJR東海の車掌に対し、13号車で異臭がしたことや、保守社員が点検したことを伝えたうえで、「走行に支障なく運転継続」と引き継いだ。

※そして、結局は名古屋駅まで重大な危険(リスク)を持ったまま走行した!


重大事故一歩手前の実態が見えてきました。
運行当事者の「何も無く定常通り走行して欲しい」という気持ちはよくわかります--
当筆も設備機器の管理をしていて、雷雨時等に機器異常動作を危惧したとき等々において、何度も「何も無く無事済んで欲しい!」という念を持ちました。
人間共通の心情だと思います。

今回取り上げたかったポイントは

後になって幹部が出てきて「止めていればよかった」と言うことではなく
「担当者が止めることを保証してあげる基準」を事前に会社側が保証しておくということ
止めて何も無かった場合、後になっての止めることを決断した人へ、責めの雰囲気が出てくることは避けたい!
--トップの心的姿勢によっては、このような雰囲気が職場が醸し出されることも無きにしもあらず--と思われますが---
これにはトップの明確な保証が必要ですし、また上司の責任でもあると思います。

ということだったのですが、
この事故は、それ以外にも各職制の認識のずれ等多くの問題点を指摘していると思います。
言葉の伝達における認識のずれ!
--根底には任務における価値基準の相違
--コミュニケーション上の問題!
--相互依存(他人任せ)!

地上を走行するという点で空を飛ぶよりは安心感がある(危険性が少ない)!?
ということで飛行機での移動は嫌だが列車はOKという人がおられると聞いたことがあります。
この言は感覚的に納得しますが、航空機の安全運行基準等など参考になるのではと、鉄道の門外漢としては思うのですが---

鳴門の双耳峰201801

鳴門の双耳峰201801