[Safety-Ⅰ] と [Safety-Ⅱ]

[Safety-Ⅰ] [Safety-Ⅱ] という安全管理の考え方(視点)が最近クローズアップされてきています。
「Safety-Ⅰ、Safety-Ⅱ」についてはエリック・ホルナゲル氏(南デンマーク大学教授)が提唱されています。
[Safety-Ⅱ]は最近よく言われている「レジリエンス」という言葉で包含されるような内容です。

 

[Safety-Ⅰ]、[Safety-Ⅱ]については、ホルナゲル氏の訳書には下記にように要約されています。

[Safety-Ⅰ]:悪いアウトカム(事故/事件/ニアミス)の数ができるだけ低い状態にあることを安全という。
Safety-Ⅰは、物事がうまくいかなくならないことを明らかにすることや、不具合の原因と危害を取り除くこと、或いはそれらの影響を抑圧することによって達成される。

[Safety-Ⅱ]:成功のアウトカムの数が可能な限り多い状態を安全という。
それは、変化する状況の下で成功する能力である。
Safety-Ⅱは、物事がうまくいかないことを防ぐことによってではなく、むしろ物事がうまくいくことを確実にすることによって達成される。

つまり、[Safety-Ⅰ]は「危険に目を向け、それの削減に努める」方向、つまり今までの安全管理。
(Safety-Ⅰの焦点はうまくいかないことであり、対応する努力は、うまくいかないことの数を減らすことである。)
それに対し、
[Safety-Ⅱ]は「順調にいっていることに目を向け、その内容を押し進めよう」という視点です。
(Safety-Ⅱの焦点はうまくいくことであり、対応する努力は、うまくいくことの数を増やすことである。)

社会システムが複雑化し、全体が見通せない状況においては、[Safety-Ⅱ]のような視点がクローズアップされるようになるのも理解できます。
これは、今までの安全管理にとってはパラダイムシフトとなる視点です。
(今までの安全管理手法つまり[Safety-Ⅰ]で、多くの事象に対応しようとするのには、無理な面もあるようにも思われます。)
でも、考えようによっては、私たちの日々は[Safety-Ⅱ]に近い思考で営んでいるようにも思えます。
現に、小規模事業場では、経営資源に乏しく、[Safety-Ⅰ]を的確に押し進めようとしてもできず、また場合によっては[Safety-Ⅰ]を経ないで、経営者の直感と経験則によって、レジリエンス風の臨機応変のその場対応が日常的に為されている面が多いのではとも考えます。


この、[Safety-Ⅱ]の視点を知ったとき、過去に「欠点修正」と「長所伸展」の二つの方向性の理論で戸惑ったことが思い出されました。
その昔、経営コンサルタントの船井幸雄氏の本を読んでいたとき、その中で「長所伸展で企業を伸ばす」「決して、欠点是正に向かってはいけない」というようなことを強調されていました。
納得すると同時に、疑問も湧いてきました。
安全管理の基本的手法は、「安全上の問題点を見いだし、それを削減する方向に努力する」というものです。
つまり「欠点是正」です。
それも徹底すればするほどよいという方向です。

さて、企業の安全管理に対峙するとき、この二つの方向のどちらを主眼に考えるべきか?
もちろん、法令遵守事項等の安全上の欠点是正をしないとことには災害へとつながります。
しかし、欠点ばかりを追い求め、その是正を求めることに徹すると、活動を萎縮させるような面もあり、最終的には嫌がられる存在となっていくことも考えられます。
この両者をうまく折り合いをつける方法はないものか?
境界をどこに置くべきか?
と考えたことがありました。
(本質安全化ができて、しかも生産性も向上するというようなケースはそう多くは存在しません)


ホルナゲル氏は、[Safety-Ⅰ]で対応できるような単純な状況は寧ろ少なく、今後はレジリエンスの方向に向かわざるを得ないというようなことを言われています。
つまり、安全管理でいうならば[Safety-Ⅱ]の方向です。
企業の安全管理については、先ずは法令遵守も含めて[Safety-Ⅰ]で対応し、その手法で行き詰まりを感じたら[Safety-Ⅱ]を検討してみるという順序になるのでしょうか?
その境は?
まだまだ、勉強不足で、ホルナゲル氏の言われていることも十分把握できていません。

しかし、「レジリエンス」という概念、あるいは[Safety-Ⅱ]という視点が示されたことで、安全管理という分野が俄然面白くなってきたように感じられます。
まだ緒に就いた段階の考え方で、広く認識され活用されるようになるには時間がかかると思われますが、これからも注目していきたいと思います。