津波「釜石の中学生の “ひと言”」②

今年(2018)の2月、南海トラフ地震の今後30年における発生可能性が70%から80%に引き上げられました。
今まで、“人ごと的”に公共機関等から発せられる防災関係の情報を受け取っていたのですが、「この“災害”に向き合わねば--」と思うようになりました。
世間から見れば、「何を今更! 遅い!」となりましょう。
(阪神淡路大震災で震度4の揺れを経験し、東日本大震災であれほどの情報を得ながら、そしてそれらを上回ると想定される南海トラフ地震の大被害想定地域に居ながらこの始末です!)

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前月につづき、震災以前から釜石市の防災指導に当たられていた片田敏孝先生(群馬大学「広域首都圏防災研究センター」センター長)の 「東日本大震災における釜石の小中学生を中心とした津波避難の記録」を参考とさせていただきたいと思います。


岩手県釜石市 大槌湾の近く、この地域唯一の中学校である釜石東中学校その隣に鵜住居(うのすまい)小学校がある。
当日は校長が不在で、教頭先生が、すごい揺れの中這うようにして放送卓まで行ったが、停電で放送できなかった。
そのときすでに、生徒たちは廊下を駆け抜けていた。
ある先生が「逃げろ!」と叫んだのを聞いて、最初に逃げたのはサッカー部員たちだった。
グランドに地割れが入ったのを見て、彼等は校舎に向かって「津波が来るぞ!逃げるぞ!」と声をかけながら、「ございしょの里」という避難場所に向かって全力で走っていった。
鵜住居小学校は、そのとき耐震補強が終わったばかりの鉄筋コンクリート3階建てであり、ハザードマップ上では「津波の来ない」エリアであった。
当日は雪が降っていたこともあり、先生方は子供たちを3階へ誘導していた。(決して的外れな行動ではない)
ところが、この二つの学校は、普段から中学校と共同で「ございしょの里」まで逃げるという訓練をやっていた。
小学校の子供たちは、日頃一緒に訓練をしている中学生たちが全力で駆けていくのを見て、3階から下りてきてその列に加わった。
結局、およそ600人の小中学生たちが、細い道を通って「ございしょの里」へ向かった。
この地域では、津波に一番詳しいのは中学生ということになっていた。
学校の近所に住んでいる老人たちも、その中学生たちが血相を変えて逃げていくのを見て、それに引き込まれるように逃げるのに加わった


【停電!】

  • 教頭先生が、すごい揺れの中這うようにして放送卓まで行ったが、停電で放送できなかった!
    --地震時の停電は、当然に想定しておかなければならないことですが、身の回りの電気の使用が当たり前の日常です。
    結構な盲点になりそうです。
    (福島原発は停電で制御不能! 日本は痛恨の痛手を負いました)
  • 停電に関しては、釜石の小中学生についてこんな記事もあります。
    「孫に助けられた」と涙ながらに学校の先生にお礼を述べた高齢者。
    津波3メートルと聞いて「うちの前の防波堤は6メートルだから大丈夫」と思ったが、孫が「逃げよう、おじいちゃん」と言う。
    「3メートルだから大丈夫」と言っても取りあわず、泣きながら「じいちゃん、ダメだ」と言って腕をつかんだ。
    しょうがないので、避難所へ歩き出し、しばらく行ったところですごい音がした。後ろを見たら、すぐそこまで津波が来ていた。
    (もちろん、家は津波で破壊されていた!)
    --地震直後の、津波の第一報は、「津波の高さ3m」であったのですが、その後、6m、10mと更新されていったそうです。
    しかし、第一報後、地域は停電して続報は住民には届かなかった。

【避難!】

  • とにかく逃げたのです。
    サッカー部員が逃げて、それに呼応して他の中学生も逃げた。
    「逃げるぞ! 逃げるぞ!」と声をかけて逃げた!(率先避難者です)
    ※「率先避難者」については、後に出てきます。
  • 小学生は先生の指導の下、耐震補強が終わったばかりの校舎の3階に避難していた。
    ところが、日頃一緒に避難訓練している中学生が全力で 避難場所へ逃げているのを見て中学生の後を追った!
    --この話を読んで、当筆は小学生のけなげな行動を想像して涙が出ました。
    自分が先生の立場なら、先生と同じような指示行動をしていたと思います。
    しかし、小学生はその先生の制止を振り切って中学生の後を追ったと思われます。
    大きな恐怖の中、じっとして居るよりも行動を起こす衝動に駆られたのかもしれません。
    普段の訓練行動の成果と言えるかもしれません。
    しかし、結果としてこの生徒達の行動が先生も含めて全員の命を救うことになったのです。
      ※津波はこの小学校の3階部分を遙かに飲み込む大きなものでした。
  • そして、これら小中学生の避難行動が、(避難を渋るであろう)周囲の人達の行動を促し、命を救うことにもなったのです。

【行政開示のハザードマップについて】

  • 公共機関より配られたハザードマップでは、小学校の3階部分は「津波が来ないエリア」であったが、津波はそれよりもはるかに大きなものであった!
  • 避難場所に設定された「ございしょの里」にも津波が及んでいくる!(後述)

--避難の判断基準として行政より出される防災情報は参考になりますが、それを越える被害もあり得るということは心に置いておく必要があると思います。
問題としている南海トラフ地震は「スーパーサイクル」といわれる前回よりも大きなエネルギーを持った時機に当たると言われています。

<次月に続きます>