「“感情労働”という視点」 ④

雑誌「安全と健康」特集「感情労働」
西武文理大学教授田村尚子先生の記事をもとに、“感情労働”について(あくまで当筆の視点で)考えてみたい思います。

日常的に感情労働が行われる状況下において、働く人の心にどのような影響を及ぼすのか?
この点に関する研究は「否定的影響を指摘するもの」と「肯定的側面を主張するもの」の2つに大別されるとのことです。
今回は、「働く人の心への“肯定的影響”の側面」についてみてみたいと思います。


一方、感情労働は対人サービス従事者に、楽しさ、喜び、新鮮な刺激等肯定的な影響を与え、大きな職場満足をもたらす、という反論がある。
【感情労働が肯定的影響をもたらす3つのキーワード】

①笑顔

顧客等から「笑顔」という反応を“直接”受けることができる。
感情労働を行うことにより、相手から直に喜びや感謝の笑顔が返されたとき、たとえ最初は「演技」で対応したとしても、対人サービス従事者の心には喜びや嬉しさ等、肯定的感情が湧き起こる。

「お客様から『ありがとう』という言葉や喜んでいる姿を見ると、心にジーンとくる良い気持ちになります。
お客様に感動を与えるということは、自分も感動できるのだということを知りました」(建設業社員)

②評価

感情労働の行使が、相手(顧客)に満足感、信頼感等をもたらし、その反応としてねぎらいや感謝の言葉、賞賛等の肯定的「評価」を受けるとき、対人サービス従事者の心は、達成感、充実感に満たされる。
より一層、良い対応を行おうという動機づけにもつながる。
たとえ感情労働が現場の上司、同僚に気付かれず、評価をされないとしても、顧客等から直に受けるプラスの評価は、働く者の大きな励みになる。

③自己承認

①、②の積み重ねの過程を通して、充実感を味わい感情労働を伴う仕事をしている自分自身を肯定し、「自己承認」していくことになる。
使命感やロイヤリティーも育まれる。

「お客様一人ひとりが工事や修理を望んで我が社を選んでくださっています。
お客様の立場で考え、お客様に何をしてあげれば喜んでもらえ信頼していただけるか、そのためにどういう行動をとったらいいかを考える機会になりました。
本当にやりがいのある仕事です。
これからも続けていきたい仕事だと思っています」(建設業社員)


前回の「否定的影響」とはまるで違う、前向きの姿勢です。
このような姿勢には安心・安堵の念を抱きます。
何がこのような差を生むのでしょうか?
肯定的側面の意見を言っている社員さんは、模範生なのでしょうか?
そのような意見が言えるようになるまでの「心の成長過程」を経験しているのでしょうか?
肯定的側面が出せるような周囲の環境は? 経営方針は?
等々、いろいろな問いが浮かんできます。

以下、続いて先生は書かれています。


以上、感情労働による心理的影響の二側面を紹介した。
感情労働の行使への反応がどちらの面になるかは、相手(顧客等)と対人サービス従事者との関係性の中で行われるものであり、一概には言えない。
双方の相性、性格や感情の相違、その時の相手の気分や様々な状況など不確定要素に左右されることが少なくないからである。
ただし、ここで重要なのは、否定的側面への対処、肯定的側面を増大させるための方策は、個人の資質、能力、経験、努力にのみ委ねられるものではなく、組織的に取り組むべき課題であるという点である。
その理由は、感情労働への対応は、サービス産業の進展に伴い生じてきた構造的課題でもあるからである。


今までは、個人の資質を元にして、「できる人」「できない人」と区分けしていた面もあったと思います。
もちろん人はそれぞれ、性格、経験、育った環境等違いがあるのですから、適不適のあるのは当たり前ですが、それだけで片づけてはどうなのかという問題です。

取り組むべき課題が挙げられています
<組織としての課題>
・否定的側面への対処
・肯定的側面の増大
<個人としての課題>
・人と人との相対関係上での課題--柔軟な対応能力の育成(いわゆる心のレジリエンス)

「経営において“人”をどのように捉えるか」という経営理念(経営者の本音)、或いは「個人として“仕事”にどのように向き合うか」という仕事観・人生観というような、重い(一歩踏み込んだ)課題も感じます。

次月で、上記課題についての具体的な方策案を参照させていただきたいと思います。