「“感情労働”という視点」⑤

雑誌「安全と健康」特集「感情労働」
西武文理大学教授田村尚子先生の記事をもとに、「日常的に “感情労働” が行われる状況下において、働く人の心にどのような影響を及ぼすのか?」について学ばせていただいています。

今回は、具体的な「感情労働への対応策」について、(あくまで当筆の視点で)考えてみたい思います。


感情労働への具体的方策
 感情労働の現場で、様々な困難を何度も乗り越えてきた対人サービス従事者が語るのが、この現場ならではの深い喜びや醍醐味である。
ただし、その境地に到達する前に、過度の精神的疲弊、バーンアウト等により離職に至る人も少なくないという。
 感情労働の行使により生じるこうした否定的側面(過度の精神的負担、情緒的消耗等)をどのように効果的に回避・軽減するか、一方の肯定的側面(喜び、充実感・満足感、自己承認)をいかに増大させるのか、個人、集団(チーム)、組織のレベルごとに具体的方策を検討する。


感情労働の現場で、経験を積んできている人(ベテラン)は、精神的にも成長して、困難を乗り越えてきていると言われます。
そして、感情労働ならではの “深い喜び” や “醍醐味” を得ているとのこと。
感情労働の現場で、経験の智恵を蓄積出来た人たちです。

しかし、その我慢が出来ず、或いは不適と感じ、「離職に至る人も少なくない」とのこと。
性格的に向かない人も多いと思います。
その割合は、どれくらいなのでしょうか?
(むしろ、成功者は2割程度なのではと想像したりもします)

感情労働へは

  • 否定的側面(過度の精神的負担、情緒的消耗等)の効果的な回避・軽減策
  • 肯定的側面(喜び、充実感・満足感、自己承認)の増大策

が考えられ、
その具体的方策として

  • 個人レベルでの対応
  • 集団(チーム)レベルでの対応
  • 組織レベルでの対応

が示されています。

以上の説明により、対応策についての整理がされています。
このような整理された理解なしに、場当たり的な対応がなされている現場も多いのではないかと思われます。

では、「個人レベルでの具体的な方策」とは


【個人レベルで行うこと】
--スキルの習得・強化、ストレス・コーピング--
肯定面を増大させる方策として、①コミニケーション・スキル、②ソーシャル(人間関係)・スキルの向上が必須である。
傾聴・説明スキルはもとより、相手(顧客等)を受容し共感的な姿勢・態度を示すことは、相手から肯定的反応を得る可能性を高める上で重要である。
実際、これらのスキル不足が原因でクレーム等に発展することもあり、謝罪のために感情労働を行使する場面を自ら作ってしまうケースも少なくない。
否定面を軽減するためには、次のように様々なストレス・コーピング(対処)が必要である。
①友人・同僚等に話すことで解消する、②意識的に気分を変える(仕事・役割と割り切る等)、③クレームを受けても客観的にとらえる努力をする、④“大きな箱”をイメージし、その中に、自分の心からストレスを切り離して捨てる等、各々が工夫・努力しており、ある一定の効果が確認される。
ただし、④の“大きな箱”の容量を超えて溢れ出したとき、うなわち過度の精神的負担、情緒的消耗等に陥った状況では、個人としての対処はもはや限界であろう。
集団、組織としての対応が必要となる。


言われていることはそのとおりなのですが、結構ハードルが高そうにも感じます。
先ずは、自分の改善向上意欲がなくてはクリアできないであろうし、知識&訓練には組織としてのバックアップ(教育訓練体勢)が必要であろうと思われます。
“身銭を切って”このような勉強をし、訓練関係のセミナーに参加する人は少ないのではないかと思います。

※意欲のある人は、これらの課題をクリアできて、対人関係での喜びや醍醐味を味わえることになるでしょう。
このような「対人関係能力」は「身に着けなければならない必要な能力」と考えることができれば、「自分が置かれた職場の環境はむしろよい勉強の場」と捉えることができるようになると思います。

コーピングとして、数例挙げられていますが、このような手法で切り抜けることができるような内容、或いはそれらを簡単にクリアできる人ならいいのですが---という疑問が湧きます。
それに、どれも職場雰囲気、チームの人間関係が大きく影響してくるように感じます。

そこで、どうしてもこの個人的レベルでの努力に加えて、チーム、組織(会社)でのバックアップが必要となってきます。
これらチーム、組織での対応については、次回考察としたいと考えます。

※コーピング(coping)とは、「問題に対処する、切り抜ける」という意味のcopeに由来するメンタルヘルス用語。
特定のストレスフルな状況や問題に対して何らかの対処行動をとり、ストレスを適切にコントロールすること、あるいはその手法を 指して「ストレス・コーピング」といいます。