「FCP:避難生活について④体験事例他」<32>

災害等において、「(自分も含めて)関係する人たちの命が救われること、及び負傷しないこと」は最優先ですが、事前対策として「被災後の生活」についても検討しておく必要があります。

各事業場においては、災害時のリスクマネジメントとして、中小企業庁から「中⼩企業BCP策定運⽤指針」が示されています。
そこには、災害等に遭遇して「事業を如何に継続していくのか?」という課題に対して、事業継続計画(BCP)の作成という方策が示されています。

この指針に示されている内容は、「災害への対応」「被災後の私たちの生活」を検討するうえにおいても参考となる事項が多くあります。
そこで、“生活の継続”という視点で、この指針の内容を検討してみるのも意味のあることと考えます。
(いわば「FCP:Family Continuity Plan」への“試考”といえます)

前回は、「FCPの定着」における「避難生活」について、課題となる事項をピックアップしてみました。
今回は「避難生活」における「体験事例他」を参照してみたいと思います。


避難場所における生活について具体的に深めていくことは、体験がない限り限界を感じます。
前回は「ライフラインの復旧」「トイレの使用」について取り上げましたが、それ以外にも考えるべき課題は多くあります。
体験者の方たちが挙げられている課題について、いつも引用させていただいている「イツモノート」(ポプラ文庫)の内容を参照させていただき、「避難場所における生活の場としての避難者相互間のルール化等」について再考してみたいと思います。

○睡眠について
  • 『プライバシーばかり主張してもいられない。
    でも、心身のバランスを保つためにも睡眠はしっかりとりたい。
    日常と非日常が混在した空間--それが避難所の生活です。』
  • 『いびきがひどい!
    いびきがひどくて眠れない人には耳栓を配った』
  • 『暗いと眠れない!
    寝るときに、明るくて眠れない人と、暗いと眠れない人がいた。
    今日はこの列の電気を消すと、日替わりで消すようにした。』

集団での生活において話し合い、知恵を共有していくということの必要性を教えられます。

○食糧品の不足
  • 『食料はボランティアの人が届けてくれたり、自治体が用意してくれます。
    でもやはり絶対量が足りません。
    種類も限られます。
    おのずとルールが必要になってきます。』
  • 『はじめの頃は、炊き出しを作った人が列に並べなくて、何も食べられないという状況があった。
    しかし、炊き出しをした人が一番にご飯を食べるようにすると不満はなくなった。』
  • 『1人分は赤のカード、2人分はピンクのカードというように、カードを見せれば何人分かすぐ分かるように。
    名前も書いてもらう。
    恥ずかしいから何回も並ぶということはなかった。』
  • 『麺類が、500人のところ300食しかなくて、半分にして小さいおつゆとし出すと、みんなにあたるし気持ちきもいい。』
  • 『食べたいものは外で食べてきてもらう。
    特定の人にしか当たらないから。』

物の不足の状況では、人の嫌な面が見えてしまうような場面も起きるものです。
そのようなことが起きないように、ルールが出来てくる、そしてそれに従って行動していこうということです。

○リーダーを決める・役割を分担する
  • 『リーダーを決める!
    人間関係をスムーズにするには、リーダーが必要だと痛感することが多くありました。
    ボランティアのコーディネートや仕事の分担など、やはり誰かが中心にならないと、難しいです。』
  • 『役割分担
    生活支援隊:受付・苦情処理・日頃の事務処理
    お食事隊:カードで配給』
  • 『子供にも大人にも、役割別に違う色のはちまきをしてもらいお手伝いをしてもらう。
    誰に何を相談したらいいかすぐわかるように』

秩序の形成とその維持のためのリーダーの存在
監修されている渥美先生は「日頃からの関わりによりスムーズに運ぶようになる」と書かれています。

○他の人への配慮
  • 『弱い人、傷ついた人、病んだ人、普段から配慮しなくてはならない人たちのことを忘れがちになることもありました』
  • 『レクレーションも行った』
  • 『避難所に取り出せた本を持っていったら、子供が読んでくれていた』
  • 『障害者や認知症の方への配慮』
  • 『避難所のお手伝いをして、初期に、乳児のミルクをとく湯、老人用のオムツの無さに胸が痛んだ。
    少数弱者のための物資供給を急ぎたい』
  • 『急病人、持病のある人は、町医者や市民病院の看護師さんが職員室で応急手当をしていた』

避難所での生活を克明に描くことは、その体験がない限り困難であろうと思われます。
「そもそも標準的な避難所などなく、それぞれがそれぞれに運営していたというのが実態である。」と渥美先生も言われています。

以上、避難生活における課題の一部をピックアップさせていただきました。
当初は、数日間(1週間程度)の避難生活という想定で避難生活の課題に取りかかったのですが、体験記を読ませていただいているうちに、いろいろな課題に気付かせていただきました。
そして、それら体験者の記されている内容には、困難下での秩序を維持形成する力と、その源になる道徳性も強く感じました。

【災害を生き抜く能力は--】   <From 雑誌「安全と健康」2021年6月号>
「災害を生き抜くにはどのような知力や能力が必要か?」について、東北大学教授邑本俊亮氏が、心理学の立場から東日本大震災で被災された人達を対象に調査され、その分析から下表のような「8つの生きる力」を導かれています。

 名称説明
人をまとめる力
(リーダーシップ)
人を集めてまとめる態度や習慣
問題に対応する力
(問題解決)
問題に方略的に取り組む態度や習慣
人を思いやる力
(愛他性)
他者を気にかけたり助けたりする性格特性
信念を貫く力
(頑固さ)
自分自身の願望や信念を貫く性格特性や態度や習慣
きちんと生活する力
(エチケット)
日常生活において社会規範に従う態度や習慣
気持ちを整える力
(感情制御)
困難な状況や緊迫した場面で気持ちを整えるための努力をする態度や習慣
人生を意味づける力
(自己超越)
精神的な視点からの自分の人生の意味を自覚
生活を充実させる力
(能動的健康)
自分自身の身体的、精神的、知的状態を維持・向上させようとする日常的習慣
災害時の8つの生きる力(Sugiura et.al.2015)

①②③は、かなり一般的で汎用性の高い力といえる。
職場でも学校でも、それらの重要性は十分に認識されていることだろう。
④⑥は、感情系の力と位置づけることができる。
災害は生き抜くためには、信念を貫くとともに、自分の感情をコントロールする力が必要なのである。
⑤⑧は、生活系の力である。
普段の生活の仕方が、実は災害場面でも生きてくるのだ。
そして⑦は、損得を超えて自分の人生の意味を自覚するという、まさに自身の生き方に関わる力である。
と説明されています。

この拙いブログは、まだ災害について十分な実感を持てない(認知バイアスの強い)筆者自身への「災害意識の駆り立て」でもあり、また「なかなか防災行動へと結びつかない焦り」でもあります。
考えることにより、一歩進んだという気持ちになってしまい、現実は何も変わっていないかもしれません。
しかし、何か皆様がFCPを考えるうえでのきっかけになればと妄想しています。
ご誤笑止くださればと存じます。