BMドクターG⑯:まとめる立場<6>

『ビル管理のドクターG』
 ビル管理技術者は「ビルの総合診療医(ドクター・ゼネラル)」?!

 古い「ビル防災」の本を眺めていたら、「ビル管理はビルのお医者さん」という小見出しがありました。
 ビルの設備等の維持管理に関する様々な問題が持ち込まれ、それらをカバーしなければならないビル設備管理技術者は、多岐にわたる建築設備の管理に関する知識と資格をカバーするビル運営を支える存在。
「ビルのお医者さん」という小見出し、なかなか的を射ているように感じました。
NHK-BSで放送されていた『総合診療医ドクターG』を模倣して、「ビル管理(BM)のドクター・ゼネラル」と格好をつけてみました。
その理想像も探りながら業務の課題を追ってみたいと思います。

前号まで数回に分けて「まとめる立場」としての設備管理責任者の業務を「職長教育の講習項目」と関連付けてみましたが、この項の終わりに「統括する立場」について思ったことを付記してみたいと思います。

パロマ事故について思ったこと!

この事故は、故障したガス給湯器を業者が不正改造し、排気ファンの不良により不完全燃焼が起こり、一酸化炭素中毒による死亡事故が発生したというものです。
ひとつの専門部署の対応だけでなく、関連する領域を含めてカバーしなければならないという事例として考えられます。
その経過パターンを「続・失敗百選(中尾政之著)」を参考とさせて頂いて辿ってみますと---

  1. 半密閉式湯沸器の安全回路のリレー端子のハンダに割れが発生した
    <不具合事象が発生>
    (屋内から吸気、屋外に排気するタイプの湯沸器であった)
  2. 修理業者が短絡配線で不正修理した
    <間違った対応>
    (安全回路故障によりガスが遮断されて使えない状態を、短絡配線で給湯機が使えるように“その場対応”により不正改造した。
    そしてこの“その場対応”の状態が修正されず続いていた。)
  3. 電源OFFでも熱電対の発生電圧でガスは短時間なら点火可能な設計であったが、上記短絡により排気温度が上昇しても点火が停止しない状態になっていた。
    (ガス電磁弁を開くのに電源を用いず、炎の中の熱電対による熱起電力を用いており、電源の供給無しでもガスに点火できる設計)
    そして、上記短絡配線により、排気ファンが回らずともガス燃焼を続けることができる状態にもなっていた。
    <物理的カラクリの問題点>
    ※保護回路に短絡配線をしたことによる回路機能の変化については、本旨とは外れるので省略します。
  4. 上記状態で使用していたが、(たまたま)電気の供給が停止している時に、この湯沸かし器を使用した。
    --排気ファンは回らず、不完全燃焼が発生し、一酸化炭素が吸気口から逆流し、中毒死へと至ることとなった。
    <事故の発生>

このパロマ事故については、Wikipediaによりその概略が記されています。
パロマ工業(当時は製造子会社)が1980年4月から1989年7月にかけて製造した、屋内設置型のFE式瞬間湯沸器で、排気ファンの動作不良を原因とする一酸化炭素中毒事故が、1985年1月より20年間にわたり日本国内で28件発生、2007年10月13日時点で死亡者21人・重軽症者19人が発生した。

これらの事故に至った直接の原因は修理業者による不正改造によるもので、製品自体に欠陥はなかったが、長年にわたり事故の存在を把握しながら消費者への周知を怠り、度重なる事故の撲滅を図れなかったパロマの対応が厳しく問われることとなった。
またこの事故を教訓に消費生活用製品安全法が改正され、重大な製品事故が発生したことを知った製造者は、報告義務を負うこととなった。

以上のようにパロマ湯沸器による事故は、修理業者が安全装置を無効化した改造が原因の一酸化炭素中毒による死亡事故です。
(米国ではそのような改造が容易にできる設計も罰則の対象になるようです)

この回路不正修理(安全回路の機能喪失)、換気不足による不完全燃焼の発生等々を建築設備管理の立場で考えてみますと、故障修理、換気における空気環境等への対応となります。
一つの専門分野の対応では限界があり、統合した立場(視点)が必要という事例として考えることができます。

関連する領域全体をカバーし、整合した対応を図るという立場
建築設備で考えてみますと、建築時の「現場の設備工事統括管理者(或いは設備部門の設計・監理者)」、そして竣工後の管理における設備管理責任者がこれに相当すると考えられます。
建築設備における全体を把握して(個々の専門領域を越えて)、「部分最適 全体最悪」の状況が起こらないように、判断し対応する人は貴重な存在です。

建築物における衛生的環境の確保に関する法律における「総合管理業登録」の人的要件となっている「統括管理者」も同じような立場にあります。
--[建築物における衛生的環境の確保に関する法律12条第2項]


また、労働安全衛生の分野における「総括安全衛生管理者」「統括安全衛生責任者」も同じような立場と考えられます。

※総括安全衛生管理者 [労働安全衛生法第10条(労安全衛生法施行令第2条、労働安全衛生規則第2条等)]
一定の規模以上の事業場において、事業を実質的に統括管理する者を「総括安全衛生管理者」として選任し、その者に安全管理者、衛生管理者を指揮させるとともに、労働者の危険または健康障害を防止するための措置等の業務を統括管理させることとなっている。
※統括安全衛生責任者 [労働安全衛生法第15条]
特定元方事業者の現場において、元方事業者の従業員及び関係請負事業者の従業員の作業が、同一の場所において行われることによって生じる労働災害を未然に防止するために現場の安全面を統括・管理する担当者のことです。
つまり複数の労働者が混在する場所での労働災害防止に関して統括管理を行う者。