BMドクターG⑮:まとめる立場<5>

『ビル管理のドクターG』
 ビル管理技術者は「ビルの総合診療医(ドクター・ゼネラル)」?!

 古い「ビル防災」の本を眺めていたら、「ビル管理はビルのお医者さん」という小見出しがありました。
 ビルの設備等の維持管理に関する様々な問題が持ち込まれ、それらをカバーしなければならないビル設備管理技術者は、多岐にわたる建築設備の管理に関する知識と資格をカバーするビル運営を支える存在。
「ビルのお医者さん」という小見出し、なかなか的を射ているように感じました。
NHK-BSで放送されていた『総合診療医ドクターG』を模倣して、「ビル管理(BM)のドクター・ゼネラル」と格好をつけてみました。
その理想像も探りながら業務の課題を追ってみたいと思います。

前号に引き続き「職長教育講習の内容項目 ⑪労働災害防止についての関心の保持 ⑫労働者の創意工夫を引き出す方法」について、まとめる(統括する)立場としての“BMドクターG(設備管理主任)”の業務と関連付けてみたいと思います。
何らかのヒントとなればと思います。
詳しくは、これをきっかけに、テキストに当たられて、その内容を確認願えたらと思っています。
「職長の安全衛生テキスト」(中央労働災害防止協会)

⑪労働災害防止についての関心の保持

「部下への動機づけ、またいかに部下を動かすか」も職長の必要な技術と書かれています。
労働災害防止のみならず管理業務遂行上の必要項目として、設備管理主任においても当てはめて考えてみることができます。
関心の保持の進め方において、先ず欠かせない知識としての「ヒューマンエラー」を挙げています。
BM設備管理業務は、設備員等による業務が主であり、ヒューマンエラーは主要な管理項目の一つになります。
しかし、この内容は広く、またその方面の文献は多数あり、人を管理する立場として、それらの文献に当たってヒントを得て欲しいと思います。

筆者のヒューマンエラーに関するヒヤリを思い出しました。
もう30年くらい前になるでしょうか--
ある遊園地の遊戯施設の点検(昇降機点検)業務をM氏に移行するため、一緒に遊戯施設点検をしていたときのことです。
コーヒーカップという遊戯施設の点検へと移っていき、自分は操作室、M氏は回転フレームの中。
もし、自分が起動スイッチを入れれば、M氏は逃げ場が無く挟まれていた--。
(自分はスイッチの操作について深く注意を払っていなかった--駆動系の電源を落としていなかった--)
少し経ってからハットして閃きました!
もしも、目の前のスイッチに触れていたら---
その後の人生は大きく変わっていたであろう。
今考えてもゾッとするほど、その時の自分は、安易な感覚での点検者気取りで、何の注意もしていなかった。
安易にスイッチONに手を出すような感覚だったのである。
--知ったかぶりの生半可な専門家気取りの「安全プアなボケ」であったことの反省的な記憶です。

また、動機づけについては、外的なものと内的なものとして以下のように示されています。

◎外的な動機づけ(視聴覚による)
  • 見せる、聞かせる⇒ポスター、写真、スライド、映画、DVDなど
  • 話す、教える⇒安全訓話、講演、ミーティングなど
  • 褒める、いましめる⇒無災害記録賞、改善提案賞を創設する。
◎内的な動機づけ(心理、精神的気づき)
  • 災害事例⇒ヒヤリ・ハット体験、災害事例を生かす。
  • 懲戒⇒ルール違反者に対して実施する。
  • 自尊心を生かす⇒能力、先輩としての誇り、役割意識を持たせる。
  • 人間の欲求五段階(マズロー)説の利用

「人間はミスをし、機械は壊れる」と言われますが、当たり前のことを事実として受け入れることから始めるということです。
この「人間はミスをするものだ」との考えのもと、人間の持つ種々の特性を踏まえて、ヒューマンエラーの防止、或いはヒューマンエラーを生じた時にそれが事故につながらないように、安全なシステムの構築努力が各分野で技術として蓄積されています。

(BM設備管理の分野においてもそのような工夫が見出せると思います)

⑫労働者の創意工夫を引き出す方法

「作業者から労働災害防止について創意工夫を引き出すには職長が中心となって行う必要がある」と記されています。
これも「⑪労働者の関心の保持」と同じく、管理業務遂行上の必要事項として、設備管理主任にも当てはまります。

職場の設備管理において各設備員が主体的に、管理事項の改善に創意工夫を凝らすことは理想的なことです。
このためには先ず“雰囲気づくり”ということで、具体的手法が書かれています。
ここで「評価できない活動は、必ずマンネリを招く」という管理上のポイントが示されています。
旗揚げした活動の多くが時間とともに衰退していくことを考えると、この「評価:PDCAのCheck」は大事なポイントです。
実際この評価の段階まで進めて、次の改善へとつなげている活動は少ないのではないでしょうか?
そして、ここが管理主任の管理のポイントにもなると思います。

作業者一人ひとりの創造性を高める方法(個人個人の活性化)として「育てたい6つの創造力」が示されています。

  1. 問題意識を持ち、作業から問題点を発見する能力---問題発見能力
  2. 基礎知識を生かし、それを応用することができる能力---応用力
  3. 古いものを捨て、新しいものを取り入れる柔軟な思考力---思考力
  4. 新しいヒントに従い、新しいアイディアを出すことができる---空想力
  5. アイディアを出し、それを組み立てていく能力---構成力
  6. まとめ上げ、新しいアイデアのものを使えるようにする---完成力

グループ各員の能力がある程度に達していなければ、グループの活性化は難しいとも言われており、各個人の向上意欲に負うところが大きい面もあります。
(しかし、当然ですがグループ構成員間の調和が必要です。)

【個人の意欲が裏目に出た事例】
予定の作業が早く終わったので、明日の業務の一部を済ませておこうと(自分ひとりで)判断して、(責任者に連絡せず)手を付けて事故・災害を起こしたという事例です。
「思いつき・単独行動」といわれる事故です。
「よかれと思ってやったこと」が裏目に出た事例です。
熱心な人、意欲のある人、合理性を追求する人等が陥りやすいのではと思います。
特に危険を伴う作業においては、管理責任者は作業者各員に注意を促し、報告・連絡・相談を密にできる関係を築いておくことが必要です。
--今では当たり前と言われる内容かもしれませんが、これに関する多くの事故事例報告が後を絶ちません。

以上大まかに、職長の安全衛生テキストの「職長の業務ポイント12ヵ条」を、設備管理主任の視点でみてきました。
既に御存じだった方もおられるとは思いますが、管理の要点が挙げられています。
管理責任者には、完璧性と効率性というトレードオフの関係にある問題解決を迫られる場面があります。
そのバランスポイントは難しく、各人の判断に委ねられる面があると思いますが、これらの12項目を管理における何らかのきっかけ(ヒント)として頂ければと思い取り上げてみました。