『ビル管理のドクターG』
ビル管理技術者は「ビルの総合診療医(ドクター・ゼネラル)」?!
古い「ビル防災」の本を眺めていたら、「ビル管理はビルのお医者さん」という小見出しがありました。
ビルの設備等の維持管理に関する様々な課題が持ち込まれ、それらをカバーしなければならないビル設備管理技術者は、多岐にわたる建築設備の管理に関する知識と資格をカバーするビル運営を支える存在。
「ビルのお医者さん」という小見出し、なかなか的を射ているように感じました。
NHK-BSで放送されていた『総合診療医ドクターG』を模倣して、「ビル管理(BM)のドクター・ゼネラル」と格好をつけてみました。
その理想像も探りながら話題にしてみたいと思います。
前回等において、BM設備管理におけるリスクアセスメントについて触れてきましたが。
BMリスクアセスメントについて、その内容を概観してみたいと思います。
<危険源の見い出しについて(リスクの洗い出し)>
リスクアセスメントにおいては、この危険源の見い出し(リスクの洗い出し)が最初のポイントとなります。
施設におけるリスクの洗い出しは、機械的、電気的、化学的等の施設内に潜在しているリスクのエネルギーに目を向けて行うことを基本とします。
発生する事故の多くは、既存事故の繰り返しであるとも言われます。
既存事故事例からも多くの潜在危険性について学ぶことが出来ます。
また、「③中核となる電気設備」の中で挙げた個々のリスク要因を探っていけば多くの危険源を見出すことができると思います。
業務における(業務に潜む)リスクの洗い出しの具体例として、次のような事項が挙げられています。
・過去に災害・事故等のトラブルが発生した作業
(よく起きているトラブルを整理する)
・過去にトラブルまでには至らなかったが、ヒヤリハット事例等で挙がった作業
・日常不安を感じている作業
(改善の必要性を感じている作業)
・過去に事故のあった設備等を使用する作業
(対応手順についても検討する)
・対応が複雑な機械設備等の操作
(操作手順についての検討を含む)
またリスクの洗い出しについて下記のような視点も示唆されています
・規則に違反している作業
・規則が現状に合っていない作業
・改善する必要があるが、出来ていない事項
・よくトラブルが起きる事項
<リスクの評価について>
リスクの大きさの見積りは、一般的には「危害の大きさ」×「危害の発生確率」として求められますが、設備管理の立場における評価軸としては下記の3軸が考えられます。
- 危害の大きさ
:施設内への影響度の大きさ - 危険事象の発生可能性
:取り上げる異常事象についての発生可能性 - 危害の回避可能性
:事故災害等への進展の回避可能性
「管理的対応」「工学的対応」の程度を考慮して現状を判断していくことが考えられます
--設備管理の力量が問われる(発揮できる)領域
- 「危害の大きさ」は設計段階で決められる面が多く、管理の立場からの対応は難しい面があります。
従って、BM設備管理におけるリスク低減においては、「危険事象の発生可能性」&「危害への進展回避可能性」への対応において、それらの管理能力が問われるケースが多く出てくることになります。 - リスクの見積り方法については、「危害の大きさ」を縦軸に、「危険事象の発生可能性」を横軸にしたマトリクス法をベースにして、横軸の発生可能性において、現状における工学的対応と管理的対応の程度(回避可能性)に応じてレベル分けをしていくという方法が適当であると考えます。
- (どこに重点を置くかにより)いろいろな見積り手法が示されていますが、自組織に適合する方法を試行錯誤することになると思います。
- これらの手法は、人の価値観が入る面もあり、深入りすることなく、その取り上げたリスク自体の検討を深めて、次のステップであるリスク低減対策へと進むことが大切です。
- 危害への回避可能性における、管理的手法&工学的手法においては、それぞれどのような項目をチェックして判断するかの事前準備検討が必要になります。
<リスク低減対策について>
対象としたリスクについての低減対策の順序(優先順位)は、概略下記のように示されています
①法規制等の適合に不備のある場合は、適合させる。
②設計や計画の段階における措置の検討
③工学的対策の検討
④管理的対策の検討
BM設備管理においては主に「①法規制等への適合」「④管理的対策の検討」の段階での対応となります。
リスク低減対策はそれぞれのケースにより多様な「管理的手法」と「工学的手法」が挙げられると思いますが、これは、リスク評価における回避可能性においてチェックした項目をより具体的に深めた対応の策定ということになります。
その異常事象へのリスク低減対策としては、下記の2つの方向性が考えられます
- その異常事象の危害への拡大進展を抑止する対応
例:ホワット・イフを考えていく
<例:もしも○○で火災が発生したとしたら、どのように対応し、その火災の拡大被害を抑えていくか?> - その異常事象を発生させないための(原因系への)対応
例:ナゼナゼを深めていく
<例:○○で火災が発生するとしたら、どのような要因が考えられ、それをどのように防止できるか?>
それぞれの異常事象に、様々なリスク低減対策が考えられると思います。
対策の優先度は、基本的には、リスク評価において見出したリスクの大きさに応じて検討していくことになります。
設備管理における重大なリスクとしては、今までの記事「②リスクの洗い出し」「③中核となる電気設備」の中で取り上げたような施設の機能不全を来すような事故・災害がまず挙げられます。
また、日常におけるリスクについては、上記リスクの洗い出し挙げたコラムも参考になると思います。
しかし、リスクアセスメントに努力して、その結果に基づいてリスク低減措置を講じても、潜在リスクはすべて消せるわけではありません。
BM設備管理においては、有効度の高いリスク低減対策を見出すのが難しい面があるかもしれません。
挙げたリスクのほとんどを残留リスクとして抱え込むことになり、管理的対応に主力が置かれることになるとも思われます。
また、実施したリスク低減対策により新たなリスクが発生しているかもしれません。
また、時間の経過とともに周囲条件も変化し、さらにリスクアセスメント深めていかざるを得ないこともあります。
リスクアセスメントとそれに基づくリスク低減対策は、終わりのない「リスク対応サイクル」ということを認識する必要があります。
しかし、これらの対応のためにBM設備管理業務の存在意義があるとも言えます。
そしてその管理の力量は、このリスクアセスメントのサイクルを繰り返し深めることにより、高められていくことになります。
以上はリスクアセスメントの大筋ですが、これら一連の対応の個々の段階の実質部分は、今までも優秀な先輩達によって実践されてきたことでもあります。