中国唐時代の太宗皇帝の治世(626~649)を「貞観の治」というのだそうですが、その太宗と名臣たちとの問答をまとめた「貞観政要」という書物があります。
その中の納められている有名な「創業と守成」についての問答があります。
唐の時代が創業期から安定期にさしかかった貞観10年のある日
太宗皇帝は側近にたずねた。
「創業と守成と、どちらが困難か?」
宰相の房玄齢(ぼうげんれい)が答えて言うに
「天下統一の大業を成し遂げるには、争覇戦を勝ち抜かねばなりませんので、創業の方が困難です」
魏徵(ぎちょう)が反論して
「一旦、天下を手中に収めてしまうと、気持ちがゆるんで自分勝手な欲望を抑えることができなくなります。衰退は常にこれが原因をなしています。守成の方が困難であると思います」
太宗が言った
「房玄齢は、かつて私に従って天下平定の大業に当たり、困難に打ち克ち、九死に一生を得て今日あるを得たため、創業期の困難を十二分に知っている。魏徵は、私とともに天下の安定に苦心している。両者の言い分はいずれも正しい。だが、創業の困難はもはや過去のものとなった、今後は私とともに心して守成の困難を克服してほしい。」
--寺尾善雄氏著「貞観政要に学ぶ」より--
この1500年ほど昔の創業と守成の問答は、現代においても多くの示唆を与えてくれます。
建物、或いは施設環境の領域においてもこの脈絡は生きています---
建物を造るのには多くの人々の労力、技術そして相応の資金が必要ですが、その建物の維持運営管理は数十年に及びます。その建物を廃棄するまでにかかる経費(ライフサイクルコスト)は、建物の種類により異なりますが、建設費の3~4倍以上必要と言われています。
この維持管理の領域は、道路、橋等の社会インフラの劣化問題にもみられるように、軽視されがちですが、非常に大切な多くの課題を含んでいます。
「守成」という言葉は、辞書に「創業のあとを受け継いで、その事業を固め守ること。」とあります。ただ単に維持することというよりも前向きな創造的な意味合いを含んでいます。
メンテナンスも、創造的改善努力(固め守る努力)という要素を含んではじめて「守成の業」といえるのではないかと思います。