「“感情労働”という視点」⑥

雑誌「安全と健康」特集「感情労働」
西武文理大学教授田村尚子先生の記事をもとに、「日常的に “感情労働” が行われる状況下において、働く人の心にどのような影響を及ぼすのか?」について学ばせていただいています。

前号に引き続き「感情労働への対処策」について--
“個人レベル” での対応だけでは難しい場合、“チームレベル” 或いは “組織レベル” での対応策としてどのように示されているのか、見てみたいと思います。


【職場(チーム)レベルの対応策】
--チーム力の強化--
“箱の容量”が一杯にならないように、日ごろからストレスを適切に発散できる環境が必要である。
同僚・上司と良好なコミュニケーションができ、共感や癒やし、助言や協力等を得られる職場はその一つである。
肯定面の増大にも職場は大きく貢献する。
「顧客から感謝等肯定的評価を受けたとき、チームメンバーと共に喜びを分かち合うことで、さらにやる気が出て心を込めた感情労働を行う原動力になる」という現場の声もある。
感情労働に関する経験の共有・暗黙知(例えば「深入り」し過ぎないバランスの取り方等)の伝達、有効な支援を醸成する場として、「チーム」力の強化は最優先で行うべきテーマである。
なぜならば、職場の人間関係が悪くパワハラもあり精神的に疲弊し、顧客対応に十分なエネルギーを注げないという人も少なくないからである。
管理・監督者は自らの役割・責務として、働く人が心身の健康を保持できるような風通しのよい良好な職場づくり、部下の心の見守りサポート等、チーム力の強化により一層尽力する必要がある。


日常において直接接触している仲間たち(チーム)との関係は、一番の職場環境です。
上記に言われているように、職場チームにおいて、経験の公開・伝達ができ、バランスの取り方等が共有できれば、働く者の気持ちはオープンになりストレスも減ることと思います。

続いて書かれているように、チーム内での意見の調整等の精神的負担が大きなストレスとなっている職場も結構多いと思います。
大きなエネルギーロスです。

ここでのポイントとして「チームリーダー或いはその上司の役割」を挙げられています。
まさに「職場のキーマン」であり、このポジションに良い人を得られれば、企業の大きな財産となります。
「経営トップ」と「職場のキーマン」は企業経営の最重要ポストだと考えます。
最近「リーダーシップ論」が話題となるのもこの点が再認識されてきたのだと思います。

社会情勢も大きく変わり、今までの上意下達型のスタイルを方向転換しなければならないと言われていますが、課題は「考え方(方針)の共有」にあるように思います。


【組織レベルの対応】
--感情労働現場への「一定の裁量」の付与--
最も大きなストレッサーとして作用するのは、「仕事の重要度が高く、裁量の自由度が低く、サポートが少ない」職場であるという研究報告がある。
また、「仕事の進め方に裁量の余地が少ない職場ではストレス性疾患等の発症リスクも急速に高まる」という研究報告もある。
実際、「一定の裁量」の付与により、顧客対応現場で顧客等の要求に即応することが可能となり、感謝等の肯定的反応を受ける頻度が高くなり、「喜びややりがい、達成感を覚えるようになった」という声が多く聞かれた。
ただし、「裁量」がいわゆる“丸投げ”にならないように裁量の基準を明確にし、効果的に機能するような管理・支援体制が求められる。


法規制に関するような業務は、「仕事の重要度が高く、裁量の自由度が低い」ケースが多く、大きなストレス業務だと思います。
法規制を受ける重要施設の管理のような業務は、むしろ「自由度が少ない」こと、つまりマニュアル通りに遂行していることが、安心感につながるような面もあるのかとも思いまが、故障等の異常事態が発生したときは大変です!

今回のテーマである「対人サービス業務」においては、「気働き」という個人裁量の自由度があるようにも思いますが、細かくマニュアル化され、それを外れることが許されないようでは、ストレスが大きくなると考えられます。
感情を表現できないようなケースにおいては尚更だと思います。

また「裁量の丸投げ」を指摘されていますが、「すべて任すから」とは気持ちのいい言葉ですが、十分なバックアップ体制のとれない中小企業では、こういう丸投げのケースも多いのではと思います。
この場合は、任された現場の自力(現場力)により大きく変わってくるであろうと思います。


以上、レベルごとに具体的方策の一例を紹介した。
各々の組織が、顧客対応の現場や職場環境に適合した対応策を検討するためのヒントになれば幸いである。
働く人の心身の健康保持と顧客満足の向上に、職場(チーム)・組織の有効かつ的確な支援は欠かせない。
管理者はもとより、経営トップの「人を大切にする」優れたリーダーシップに期待したい。


先生も「ヒントになれば幸いである」とされていますが、現実としてはいろいろと難しい面が出てくるものです。
そこで行き着く先が、先生も指摘されているように「経営トップの“人を大切にする”」という経営姿勢です。
結局は、組織文化のベースとなる経営者の「本音レベルの“人”への価値観」へと行き着きます。

表向きは「安全」を言い、裏で生産性のみの基準で価値判断する経営者。
安全講話の後で、主要幹部に「でも分かっているね!(生産最重視の念押し)」という経営幹部
--労働者はそれ(本音)を敏感に見抜くものです。

※以上、感情労働を6回に分けて記事化してきましたが、仕事観、人生観と通じる面が多く、これからも深めていく必要のある内容であると考えます。
AI時代の到来を言われていますが、事務的対応はAIで代替できても、人間性の本質に近い課題はずっと残るであろうと思われます。