制御系と安全系の分離

今年(2021年)7月23日から8月8日までの東京オリンピックが開催されました。
日本選手の活躍が大きく報じられ、大きな事故もなく閉会式を終えました。

オリンピック開催前は、コロナ禍での開催の是非が話題になっていました。
コロナ感染の拡大傾向のなか、オリンピックの開催可否のアンケートは、「すべき」と「中止」が半々でした。
海外においても同じような数字が出ているとの報道(中止が半数)には驚きました。
(報道機関による偏向の可能性もあり、またそのアンケートの詳細も不明ですが---)
そして、(そのような中での)開催理由の明確な表明があやふやなまま、“時間切れ突入開催”となったという感もありました。

開催を前提とする組織(IOC、JOC、オリンピック組織委員会等)は、この困難な状況下においても、その目的達成に努力します。
中止の方向へはよほどのことがない限り向きません。
日本政府も開催を前提に安倍内閣から管内閣へ引き継がれ、国際的にもそのような方向で支援を求めてきました。

ところで政府には、このコロナ対応においては、医学専門的な立場から助言を担う専門組織を設けています。
機能的には、この専門組織が政府等の実行組織を制約するという関係です。
そしてこの専門組織は、安全工学における「安全回路」に近い構図のモノと考えられます。
「実行部門とは独立した安全チェック部門が実行部門を制約する」という安全チェック部門としての存在です。
そしてこれは、「実行組織」と「専門組織」の機能を分離できたか? という課題へとつながります---。

以上のような思い持っていたとき、経営学者の田坂広志氏が、コロナにおける政府の対応として、「この専門組織への位置づけが曖昧となっており、結局は言い訳程度に専門組織を使っている」というようなことを言われている記事を目にしました。

この記事には、
既に大きな方向性は決まっているということ
オリンピックの開催においても、実施という大前提のもとに、専門家組織の発言を自分たちの都合のいいように解釈して利用しているとして下記を挙げておられました。
 ・専門家の位置づけが不明確
 ・独立系で強い勧告が必要
 ・専門家を利用している
 ・組織がひとつになっている
安全の組織と経済の組織においては、通常は経済が強いが、綱引きの関係と透明性が必要ということです

また、田坂先生から、6月24日のテレビ朝日のモーニングショーにコメンテーターとして出演するに際し、次のような「風の便りメール」を頂きました。

「菅政権の五輪開催方針と危機管理」
 菅政権は、「安全安心の大会を実現する」と宣言し、
 オリンピック・パラリンピックの予定通りの開催を決め、
 それも「観客有り、観客上限1万人、枠外関係者数千人」で
 開会式などを進めていこうとしています。
   ※これは後日原則無観客に変更している
 一方、6月19日、20日の各メディアの世論調査では、
 「五輪開催で感染拡大が不安 86.7%」(共同)
 「五輪開催で感染拡大が不安 83%」(朝日)
 「安全安心な大会が実現できるとは思わない 64% 思う20%」(毎日)
 「安全安心な大会が実現できるとは思わない 66.8% 思う10.2%」(テレビ朝日)
 という結果に示されているように、
 多くの国民は、政府の語る「安全安心の大会を実現する」とのメッセージを
 信頼していません。
 では、なぜ、国民は、政府の判断を信頼できないのか?
 その理由を、この番組では、
 (1)分科会などの医療専門家の位置づけ
 (2)リスク・コミュニケーションの原則
 という2つの視点から分析し、
 いま、菅政権が立ち返るべき「危機管理の原則」について、
 スタジオ・コメンテーターとして、語ります。

現実の運営に責任を負うのは実行組織です。
専門組織を置き、その意見を運営に活かそうというのが実行組織の意図でありますが、その専門組織をどう生かすかは実行組織の姿勢の問題ということになります。

★制御系と安全系を分離し,制御系の欠陥や暴走に対して防護できる安全系を設置するという安全管理構造の設計
 (制御系が実行組織、安全系が専門組織)
 田坂先生はこのことを明確に言っておられます。
 これが出来なければ安全は確保できないということ
 このような理論に基づく組織を構築でき、有効化できているか? ということ!
 (付け加えるなら、安全系はフェールセーフであることが必要となります)