ハーズバーグというアメリカの臨床心理学者がいます。
このハーズバーグが唱えた「動機づけ・衛生理論」によりますと、人間の欲求充足と動機づけとの間には次のような関係があるそうです。
- 同一の仕事の中に、人間の積極的な態度を引き出す満足要因と、人間に不満をもたらす不満要因という二種類の要因が、同時に存在し、しかも独立して作用している。
- 満足要因は「動機づけ要因」とも呼ばれ、職務の内容に関連した要因であり、仕事の達成、業績の承認、やりがいのある仕事、重要な責任、成長と昇進などである。
- 不満要因は「衛生要因」とも名づけられている。
主な要因は、職務環境に関するものであり、組織の政策と管理のあり方、監督者や同僚や部下との関係、給与・労働条件、財務安定性などである。 - 動機づけ要因は、個人の心理的成長と自己実現を促進し、人間の真の動機づけに積極的に貢献する要因である。
他方、衛生要因は、たとえそれが満たされたとしても、人間の積極的な動機づけにならないものである。
しかし、それが欠乏すると、職場における個人の病気、つまり無気力、欠勤、退職とか、組織や集団の病気、すなわちストライキや、組織的な怠業(サボタージュ)などが発生する。
【以上「モラロジー経営原論」より】
この「衛生要因」に注意を向けてみたいと思います。
先ず思い当たるのが下記の箇所です。
「たとえそれが満たされたとしても、人間の積極的な動機づけにならない」。
思い当たる点があります。
「あんないい環境の会社にいながらなんで辞めるの」
「こんないい条件なのになんでそんなことをするの」
というようなフレーズはよく聞きます。
つまり、人は積極的欲求(人としての基本的欲求や自己実現への欲求)に価値基準を置く傾向があるということです。
そして次ぎに気づくのが
「しかし、それが欠乏すると、職場における個人の病気、つまり無気力、欠勤、退職とか、組織や集団の病気、すなわちストライキや、組織的な怠業(サボタージュ)などが発生する。」という箇所です。
つまり「“安全衛生”に関する事項」はこの衛生要因に当たります。
また「時間管理のマトリックス」があります。
『第一領域の「重要かつ緊急事項」は一番に対応しなければならない事項で、通常は即対応します。
次ぎに実施するのは第三領域の「重要でないが緊急事項」になりがちであり、
第二領域の「緊急でないが重要事項」が抜け落ちる傾向にあるので注意しましょう』という時間管理の注意事項を示したものです。
企業の経営で考えてみると、衛生要因はこの第二領域に位置すると思います。
そして、企業運営において、この衛生要因をどう受けとめどのように展開するかは、経営トップの認識にかかっています。
イエローハットの創業者で掃除について「日本を美しくする会」を提唱されている鍵山秀三郎氏は「益はなくとも意味はある」ということを言われています。
【雑誌「道経塾No.89」】
これは中国の晏子の言葉だそうですが、この「意味はある」というのが、上記の「しかし、それが欠乏すると---」に当たります。
「見えないところが大切」ともよく言われますが、衛生要因の重要性を認識して経営に当たる人は少ないと思いますが、衛生要因は企業経営における「見えないが重要なポイント」だと考えます。