津波「釜石の中学生の“ひと言”」③

今年(2018)の2月、南海トラフ地震の今後30年における発生可能性が70%から80%に引き上げられました。
今まで、“人ごと的”に公共機関等から発せられる防災関係の情報を受け取っていたのですが、「この“災害”に向き合わねば--」と思うようになりました。
世間から見れば、「何を今更! 遅い!」となりましょう。
(阪神淡路大震災で震度4の揺れを経験し、東日本大震災であれほどの情報を得ながら、そしてそれらを上回ると想定される南海トラフ地震の大被害想定地域に居ながらこの始末です!)

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前月につづき、震災以前から釜石市の防災指導に当たられていた片田敏孝先生(群馬大学「広域首都圏防災研究センター」センター長)の「東日本大震災における釜石の小中学生を中心とした津波避難の記録」を参考とさせていただきたいと思います。


【避難:「ございしょの里」へ、そして「やまざき」へ】

同じ地域にある鵜住居保育園でも、保育士さんがゼロ歳児をおんぶして、他の小さな子供たちを5、6人乗りのベビーカーに乗せて、坂道を上がっていた。
それを中学生たちが見つけて、女子はベビーカーに乗れない子供を抱きかかえ、男子はベビーカーを押した。
そうやって、みんなで「ございしょの里」に入っていった。

ところが、「ございしょの里」の裏の崖が地震で崩れかけていた。
それに気付いたある中学生が
「先生、ここ、崖が崩れかけているから危ない。
それに揺れが大きかったから、ここも津波が来るかもしれない。
もっと高いところへ行こう。」と言った。

「ございしょの里」よりもさらに高台に、介護福祉施設「やまざき機能訓練デイサービスホーム」がある。
子供たちが「先生、やまざき行こう、やまざき」と言いはじめる。
この頃にはすでに津波は町へ到達していて、防波堤に津波が当たって水しぶきを上げており、家が壊れ、土煙が上がる光景が見えていた。
子供たちは、それを見て、泣きじゃくる状況となった。
みんなは懸命に、「やまざき」へ移動を始める。


【助け合いの避難!】

  • 鵜住居保育園でも、保育士さんがゼロ歳児をおんぶして、他の小さな子供たちを5、6人乗りのベビーカーに乗せて、坂道を上がっていました。
    それを中学生たちが見つけて、女子はベビーカーに乗れない子供を抱きかかえ、男子はベビーカーを押します。
    --小中学生が率先して、助け合いの避難しています。
    このような「いざという時の“助け合い”」を小中学生が体現してくれていることに何かホッとする心になります。
    (人を押しのけて自分だけが先へ向かっていません)
    そうやって、みんなで避難場所に指定されていた「ございしょの里」に入っていきます。

【「ございしょの里」では危険!】

  • ところが、「ございしょの里」では、裏の崖が地震で崩れかけていました。
    それに気付いたある中学生が
    「先生、ここ、崖が崩れかけているから危ない。
    それに揺れが大きかったから、ここも津波が来るかもしれない。
    もっと高いところへ行こう。」と言います。
    --このひと言で、次の行動へと素早く移っていけたのです。
    (ございしょの里で時間を費やし、次への行動の判断が遅かったら、津波の襲来を避け得なかったかもしれません。)
  • 遠い昔になりますが、当筆が小学生の時、担任の先生のパラオにおける戦争体験として
    「敵の急襲を受け、どうしようかと迷ったとき、ふと母親の顔が浮かんで、その導きの感覚で逃げて助かった」ということを聞いたことがあります。
    危機に直面したとき、その場面で湧いてくる感覚。
    難しい理論(或いは豊富な理論知識)ではなく、平易で日常的な安全知識(安全感覚)がその時の行動を左右すると思います。
    日常において、「(考えている時間の無い)緊急時の危険予知行動の訓練」が必要であると考えます。
    ==今後、「事例研究」「“場”のKYT」の充実へと繋げていきたいと思います。==

【さらに避難を続け「やまざき」へ】

  • 「ございしょの里」よりもさらに高台にある介護福祉施設「やまざき機能訓練デイサービスホーム」。
    子供たちが「先生、やまざき行こう、やまざき」と言いはじめます。
    --子供たちは日頃より避難についての教育・訓練を受けており、「避難感受性」を持っています。
    この頃にはすでに津波は町へ到達していて、防波堤に津波が当たって水しぶきを上げており、家が壊れ、土煙が上がる光景が見えています。
    子供たちは、それを見て、泣きじゃくる状況となっています。
    みんなは懸命に、「やまざき」へと移動を進めます。

「やまざき」への移動中の状況(下写真)
(内閣府広報ビデオ「南海トラフ巨大地震」より)

ヤマザキへの避難

 

 

 

 

 

 

 

帽子を被っているのが小学生。
それぞれ、中学生と手をつないでいます。
一緒に逃げているお年寄りもいます。
この後ろには、保育園児を抱きかかえた女子中学生。
車椅子を押している男子中学生。
足の悪いお年寄りをエスコートしている中学生がつながっています。

--小中学生の「逃げよう」を端に、みんな夢中で逃げたのです!

<次月に続きます>