平成3年大相撲5月場所は、照ノ富士が優勝しました。
その5月場所11日目以降の勝敗について---
11日目
それまで10連勝の照ノ富士は、対戦相手である妙義龍の髷(まげ)をつかむという違反で負けました。
相撲は圧倒的に優勢で、髷をつかむという動作が出る前、すでに妙義龍は転ぶ寸前でした。
髷をつかむという行為も、相手の体制を崩すという流れの中で自然と出たものと考えられ、故意にしたものではないことはその状況から見て明らかでした。
もともと、この髷についての規則には曖昧な点を感じていただけに、勝敗を決することを第一の目的とする相撲への関心が退いていく感が出てきました。
相手の髷を持って引っ張るという明らかな行為と、流れの中で起きる髷への接触は区別して然るべきであろうと思います。
関心は、照ノ富士がこの審判をどのように受け止めたかにありました。
審判の直後は納得のいかないような表情にも見えました。
その審判長は照ノ富士の師匠の伊勢ヶ浜親方でした。
その後の照ノ富士の取組みに関心が向かいました。
12日目は素晴らしい相撲で勝ちました。
ラジオの解説によると、照ノ富士は「(前日は)そういう相撲をとった自分に非がある。心を改めて頑張る」というようなことを言っていたとのことです。
13日目も勝ち
14日目の遠藤戦
土俵際で、もつれ合って倒れ落ち、行司軍配は照ノ富士。
しかし、“もの言い”がつき、長い協議の後、負けという審判!
(悪くとも、取り直しとの解説者の意見もありましたが--)
このときも、審判長は師匠の伊勢ヶ浜親方でした。
15日目 千秋楽
一敗で追う貴景勝との一番
「(昨日の審判に影響されたのか?)いつもと違う動き」(舞の海:解説)により、貴景勝の引きにあっけなく手をつき負ける。
14日目までは、ほぼ優勝が決まっていたような状況であったが、優勝決定戦になってしまう。
気持ちを切り替えられるか?
結果は、勝利!
「この三日間はしんどかったでしょう」という北の富士の解説。
二回もの“もの言い”で自分の弟子の負けを宣告した親方。
結果としては、順当に勝ち進んで優勝というパターンよりも、ずっと興味深い物語が作られた場所になりました。
私の先輩筋に当たる方が言われていた言葉を思い出します。
「ものごとに直面してぞ道二つ 上達 or 退歩 どちらを選ぶ?」
--難題が起きた時の受けとめ方です
照ノ富士は優勝後の会見でも、「そういう相撲をとった自分に非がある。心を改めて頑張る」というような意味の言葉を述べていました。
経営学者の田坂広志先生は、著書の中で、人生上の課題への対応力として「解釈力」「引き受け」という言葉を使われています。
当事者としては難しいことと思われますが、照ノ富士がそれを見せてくれた場所であったと思います。
朝乃山は規則違反で6場所出場停止、そして地位陥落の見通し。
照ノ富士という良いモデルがあります。
再起して欲しいところです。