災害等において、「(自分も含めて)関係する人たちの命が救われること、及び負傷しないこと」は最優先ですが、事前対策として「被災後の生活」についても検討しておく必要があります。
各事業場においては、災害時のリスクマネジメントとして、中小企業庁から「中⼩企業BCP策定運⽤指針」が示されています。
そこには、災害等に遭遇して「事業を如何に継続していくのか?」という課題に対して、事業継続計画(BCP)の作成という方策が示されています。
この指針に示されている内容は、「災害への対応」「被災後の私たちの生活」を検討するうえにおいても参考となる事項が多くあります。
そこで、“生活の継続”という視点で、この指針の内容を検討してみるのも意味のあることと考えます。
(いわば「FCP:Family Continuity Plan」への“試考”といえます)
前回は、「FCPの定着」における「避難生活について②:留意事項」について触れました。
今回も「避難生活について③:留意事項2」として、特に課題となる事項をピックアップしてみたいと思います。
避難所生活について具体的に深めていくことは、体験がない限り限界を感じます。
特に今回取り上げた「ライフラインの復旧」「トイレの使用」については、困難性を伴った重要な問題点です。
一般記事化されている事項を前回に続きピックアップしてみます。
(以前の記事の再掲になるかもしれませんが、再度考えてみたいと思います)
ライフラインの復旧について
8月3日和歌山市において水道用の橋が崩落し、およそ6万戸で断水が発生し、復旧まで約1週間を要しました。
考えられないような事故でしたが、もしかしたら至るところでこのような設備の老朽化・弱体化が進んでいて、同じような事故のリスクが潜んでいることも考えられます。
地震等の災害時には連鎖的、或いは多重的に発生することもあり得ます。
そのような弱点からライフラインの停止という事態が起こります。
水道や電気、ガスが止まり、また道路が壊れたり、倒壊した家屋で通れなくなったりします。
電気が止まると、テレビ、パソコンでの情報収集ができなくなります。
生活が完全にマヒしてしまいます。
以前の当ブログでも記事化しましたが、下記の例が示されています
(地域により状況が大きく変わると考えられます)
和歌山の断水においては、水道仮設工事を急ぎ、約1週間で供給は回復しましたが、それは多くの社会資源を投入結集できた結果の1週間です。
(送水後も、飲用を確認するための水質検査に数日を要したようです。)
広域災害により、社会全体がマヒしていれば、上記例の復旧日数も楽観的な数値になるかもしれません。
しかし、避難生活者としてはその回復を切望する立場にあります。
つまり、備蓄等で生活を維持することになるかもしれません。
物資の供給が遅れれば、生命の危機にも成りかねない状況となります。
避難生活におけるトイレの問題について
トイレは深刻な問題です。
たとえ自宅避難が出来たとしても、トイレが使えるとは限りません。
震度6弱以上の地震の後は、原則トイレは使用禁止といわれており、その使用には注意が必要です。
(断水による水の使用不可も発生します。)
状況によっては、下水道管や排水管の機能確認まで待つ必要が生じるかもしれません。
また、施設の設置状況にもよりますが、風呂の残り水などをムリに使うと、汚水の逆流も考えられます。
以上のような理由により、非常用トイレの準備を考えておくことが必要となります。
<非常用トイレについてのポイントが示されています>
・消臭剤・凝固剤と、まとめて密閉できる消臭袋を用意しておくこと。
・排泄物(大便・小便)は結構かさばるので、衛生面も考慮のうえ、その保管場所を事前に決めておくこと。
※非常用トイレを実際に使ってみないと実感が湧きませんが、難題であることは容易に想像できます。
数ヵ月前のブログで掲載しました「非常用トイレの例」を再掲載します
また、参考とさせていただいている「イツモノート」(ポプラ文庫)にも、トイレに関する深刻な声が出ています。
当事者の言葉として引用させていただきます。
- 「トイレは深刻な問題です。
トイレがひどい状態になり、行くのを我慢して、体をこわす人もいました」 - 「簡易トイレは、照明がなくて困った。
懐中電灯を活用して照明にした」 - 「校庭に穴を掘ってトイレを使った」
- 「トイレを借りようとしたが、はなはだ汚く、用が足せなかった」
- 「何よりも困ったことは、トイレが使用不能だったこと。
皆、校庭で垂れ流しの状態だった---」 - 「唯一ひとりになれる場所がトイレだった。
しかしひどい臭いで中もぐちゃぐちゃになっていて----」
以上、避難生活における課題をピックアップしてみました。
滅入るような言葉もありましたが、そのような状況の中、関係する人達が知恵と工夫を出し合って、生き延びることを考えていかなければなりません。
「イツモノート」の体験者の声にも、困難下での「人の優しさに触れ元気づけられた」というような内容も多くあります。
『防災訓練がなぜ必要か』
について、雑誌「安全と健康」2021/6に東北大学教授邑本俊亮氏が、心理学の立場から下記の3点にまとめられています。
◆第一に、
訓練に参加することで、参加した人の防災に対する意識が向上する。
防災意識が向上すれば、防災に関する情報に注意が向きやすくなるし、次回の防災訓練に参加する確率も上がる。
◆第二に、
現場の訓練で身に付けた知識は、将来その場で被災した際に思い出しやすい。
場所が思い出すための手がかりになるからである。
これは文脈依存記憶と呼ばれている。
◆第三に、
実際に体を動かすことで、体が覚えている知識となる。
心理学では人間の知識を「宣言的知識」と「手続き的知識」に分けて考えることが一般的である。
前者は言葉で言える知識のことであり、後者は体が覚えている知識のことである。
いくら避難の仕方を言葉で言えても、体がスムーズに動かなければ意味がない。
体が覚えている知識にするためには、体を動かして何度も訓練しておくことが必要なのである。
この拙いブログは、まだ災害について十分な実感を持てない認知バイアスの強い筆者自身への「災害意識の駆り立て」でもあり、また「なかなか防災行動へと結びつかない焦り」でもあります。
考えることにより、一歩進んだという気持ちになってしまい、現実は何も変わっていないかもしれません。
しかし、皆様がFCPを考えるうえでの何かのきっかけになればと妄想しています。
ご誤笑止くださればと存じます。