森ビル回転ドア事故 再考

情報が氾濫し、入り乱れている現代。
一時期世間を賑わした事故災害も、記憶の遠く彼方に仕舞い去られているような状況だと思います。
それが、古いファイルを整理している時など、蘇ってくるときがあります。
いま読んでみても、なんら古いものではなく、現在にそのまま警鐘として生きているように感じます。

整理中に見つかった「森ビル回転ドア事故」を小考してみました。

2004年(平成16年)03月26日午前、東京都港区の大型複合施設「六本木ヒルズ」の森タワー2階正面入口で、母親と観光に訪れていた6歳男児が大型自動回転ドアに挟まれて死亡した事故です。
男児は母親より先にビルに入ろうと小走りで回転ドアに入りかけ、回転するドアとドア枠に頭部を挟まれました。
男児がセンサの死角に入り緊急停止が働かなかったことが主な原因となっていますが、当該回転ドアは重量が重く、停止動作開始後に停止するまでに時間がかかるものであったとのことでした。

当時の新聞記事を引用させていただきます。


【回転ドア事故、業過致死容疑で森ビル役員ら書類送検】
 東京都港区の六本木ヒルズ森タワーで昨年3月、大阪府吹田市のRちゃん(当時6歳)が自動回転ドアに挟まれて死亡した事件で、警視庁捜査1課は26日、ビル管理会社「森ビル」の多田雄三常務(62)ら3人と回転ドアの販売元「三和タジマ」の久保久暢顧問(61)ら3人の計6人を、業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検した。
 六本木ヒルズの運営全般を統括する「運営本部長」を兼ねていた森稔・森ビル社長(70)については、捜査1課は、事件は予見できず、過失責任は問えないと判断、立件を見送った。
 調べによると、森タワーでは一昨年12月7日、Rちゃんが挟まれたドアとは別の自動回転ドアで、6歳の女児が頭を挟まれてけがをする事故があった。
これを受け、森ビル側は、「今後、重大な事故が起こる可能性がある」として、三和側とともに6項目の再発防止策を定めた。
 しかし、森ビルの常務らは、このうち、
〈1〉ドアに逆回転機能を付ける
〈2〉固定式の進入防止さくを設置する
〈3〉ドアの端にスポンジなどの緩衝材を設置する
――という3項目の実施を怠り、Rちゃんの事故を引き起こした疑い。

※「のど元過ぎれば怖さを忘れる」はいつも言われます。
事件当初は、大騒ぎし、そして(有り余るような)対応策が練られます。
しかし、対抗策は十分に実施されず経過し、結局は行われずに終わります。
--人間特性(組織特性)のひとつといってもいいのですが、それについてへの対処策もいろいろと示されているのですが---

 一方、三和側は、ドアが閉まる直前に人が進入してもセンサーが感知しない「死角領域」があることや、センサーの感知から停止までにドアが約25センチ進んでしまうことを森ビル側に伝えなかった疑い。
 これまでの調べで、森社長は、女児の事故後の一昨年12月24日、常務らから事故の概要などを聞いた際、「すぐに(再発防止策を)やりなさい」と指示していた。
同課では、森社長にも対策を見届ける義務があったとみて、調べを進めてきたが、森社長に報告されたのは、回転ドアでの重大事故6件のうち1件だけで、事件の予見は困難だったと判断した。
 (読売新聞) 2005年(平成17年)1月26日12時20分更新

※業務上の連絡調整についての課題であります。
経営者は報告を受けた事項の重みをどのように受けとめるか、経営上の価値基準という課題に行き着きます。

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【「回転ドアは試作品」販売元が説明書に危険性も記載】
 六本木ヒルズ森タワー(東京都港区)の自動回転ドアにRちゃん(当時6歳)が挟まれて死亡した事件で、回転ドアの販売元「三和タジマ」の担当者らが警視庁捜査1課の調べに対し、「事故の起きた回転ドアはまだ試作品だった」などと供述していたことが、26日わかった。
 また、三和タジマがビル管理会社「森ビル」に渡した取り扱い説明書には、「(説明書通りに扱わないと、利用者が)死ぬ可能性もある」と記載されていたことも判明。
森ビルと三和タジマの双方が、回転ドアの危険性を認識していながら、十分な安全対策を講じていなかった実態が浮かび上がった。
 同課はこれまでに、森ビルと三和タジマの役員や担当者ら計数十人から事情聴取を行ってきた。
この中で、三和側の担当者が、事故の起きた回転ドアについて「まだ試作品だった」と供述。
さらに、「回転ドア業界でトップメーカーになるために販売を続けた」「上層部から『海外企業に負けるな』と言われた」などとも話したという。

※「営業結果を出すための“ムリの経営”」
企業は業績を上げるために “死にものぐるいの努力” をしているとはよくいわれます。
しかし、「安全を軽視してまでのムリ」が社会的に許されない傾向は時代と共に強くなってきています。

三和側は、事故直後の昨年3月26日の会見で、事故のあった回転ドアのセンサー機能について、「センサーが飛び込みなどを感知すればドアは直ちに停止する」などと説明し、回転ドアには落ち度がなかったことを強調していた。
 しかし、その翌日の会見では、「センサーが感知して停止するまで25センチ動いてしまう」と訂正。
三和側はRちゃんの死亡事故後、回転ドアのセンサー機能などを改良していた。

※企業は、「自分たちに不備はなかった」という正当性を先ずは主張するものです。
企業の戦略家はそのように経営陣に方向付けをするのでしょうか?
詳細が判明してくるとか、社会評価の変化により、その主張は変化してきます。

 一方、森ビルと三和側は、事故のあった回転ドアを森ビルに納入する前の2000年9月、このドアの性能検査を実施していた。
その際、三和側は森ビルに対し、「取扱書通りに扱わないと危険です」などと書かれた取り扱い説明書を手渡していたが、この時の説明書には、事故が起きて利用者が死亡する危険性については記載されていなかったという。
 その後、六本木ヒルズがオープンした2003年4月ごろ、三和側の担当者が改めて森ビルに対し、「死ぬ可能性もあります」と書かれた別の説明書を手渡したという。
 海外の回転ドアメーカーによると、取り扱い説明書には利用者の事故死の可能性を必ず明記しているが、国内の別メーカーでは「傷害を負う危険がある」と記載している。
 (読売新聞) 2005年(平成17年)1月26日15時9分更新

※訴訟リスク回避のための企業防衛として、昨今、「危険注意書き」が多くなりました。
必要でもあり、冗長でもありの感がしますが、不特定多数における判断にはいろいろなケースもあり、致し方ないのでしょうか。
しかし、メーカーには危険注意を表示しなくてもよい(できるだけ少ない)製品を作ってもらいたいものです。

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【森ビル回転ドア事故関係】
★東京都港区の六本木ヒルズ森タワーで、大阪府のRちゃん(6)が自動回転ドアに挟まれて死亡した事故で、「森ビル」からビル管理を委託されている「丸誠」の西村隆社長は30日午前、事故防止センサーの不感領域(死角)を拡大することについて「オーナー(森ビル)の指示がなければ、当社だけの判断ではできない」などとして、死角拡大の協議に加わったり、合意したりしたことはないと説明した。
回転ドアの販売元「三和タジマ」と親会社の「三和シヤッター工業」は29日夜の会見で、センサーの誤作動防止のため、2003年12月下旬に三和タジマと丸誠の担当者が協議したうえで、センサーの死角を通常設定の「地上80センチから15センチ」から、「地上120センチから15センチ」に拡大することを決めたと説明していた。
 これについて、丸誠の西村社長ら役員、監査役計5人は読売新聞などの取材に、「森ビルの指示や承認なしに、人命にかかわる回転ドアのセンサーの設定変更など重要な作業は行えない」などと説明。
また、同社には約50人の森タワー担当者がいるといい、「これまでに約9割の担当者の聞き取り調査を終えたが、(2003年12月の)三和タジマとの協議に応じた担当者はいない」とした。
西村社長は「当社がセンサーを調整するなどあり得ない。(三和シヤッター工業の会見内容に)驚いている」と強調した。

※丸誠が管理業務の契約しているのは森ビルであり、三和ではないのですから当然の回答のように思われますが、現場での対応の詳細は不明ということだろうと感じます。
業務記録が必要(契約事項の境界部分においては特に重要)ということです。

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★東京都港区の六本木ヒルズ森タワーで、大阪府吹田市のRちゃん(6)が自動回転ドアに挟まれて死亡した事故で、Rちゃんがドアに挟まれる直前、別の通行人数人が先にドア内に入り、回転速度が最速の状態になっていたことが31日、わかった。
 警視庁捜査1課と麻布署で事故場面が映った防犯ビデオを分析した。
調べによると、Rちゃんは、小走りで回転ドアに近付き、飛び込み事故防止用に設置されたポールの左脇をすり抜け、閉まりかけのドア内に滑り込もうとして、ステンレス製の側壁とガラスドアの間に頭を挟まれた。
この場面は、正面に向かって右上方に設置されている防犯ビデオに映像記録が残っていた。
 捜査1課で管理会社の森ビルからビデオの任意提出を受けて分析した結果、Rちゃんが駆け込む直前、ビルの中から屋外に出ようとする数人の人が、回転ドアの中に入っていたことが確認された。
 このドアは、無人の時は毎分1~2.5回転(毎秒約25~約63センチ)で動くが、人が入ると、このドアの最速の毎分3.2回転(毎秒約80センチ)で稼働するよう設定されていた。
このため、事故当時は最速の状態で回転していたことになり、Rちゃんは、最も強い衝撃を受ける状態で事故に遭ったとみられる。
 ドアの販売元の親会社「三和シヤッター工業」によると、事故が起きた回転ドアは、人が乗り込んだ際は毎分2.8回転(毎秒約70センチ)にしておくのが「標準設定」という。
しかし、同社によると、「森タワーでは、多くの利用客を見込んだ森ビル側の強い意向で、人が入った際の速度を最速の毎分3.2回転に設定していた」といい、捜査1課は、回転速度が標準より速く設定された経緯について、三和シヤッター工業側、森ビル側の双方から事情を聞いている。
 (読売新聞)

※回転数を上げ生産性を向上させるということは、一般に行われていることだと思いますが,その前提として「安全確保が確定している場合」に限り許されます。
「生産性は安全に優先された(安全性が無視された)」と言われても反論できません。


「古くて新しいとも言える永遠の課題」(つまり訂正され難い傾向)を含んでいます。
教訓として現在にもそのまま生きています。