T社の工場で、2017年1月18日と1月22日に、火災事故が連続して発生しました。
この火災事故について、雑誌「安全と健康」2017年9月号に、東京工業大学の中村昌允先生が下記のようなに記されています。
--先生は以前、このT社の別の工場を見学されていました、その見学時に感じた内容も含めての記事です。
技術系、運転系従業員の教育プログラムがきちんと整備されており、そのポジションで要求される知識、技能もきめ細かく管理されており、企業全体で安全衛生活動をしっかり進めていると感じていた。
それでも今回の火災事故が起きたことに衝撃を覚え、改めてリスクアセスメントの重要性とルール遵守徹底の難しさを感じた。
(中略)
最近は自動化の進展によって、運転員の実務経験やトラブル経験が不足している。
過去にリスクアセスメントを実施した設備や作業でも、その当時のリスク評価状況と、「人」「設備」「管理」が異なっており、最新の状況や知見に基づいて、定期的に再評価する必要がある。
人はこのルールが必要と理解すれば遵守する。
そのためには、ルールの必要性を理解する「場」と「教育」が必要である。
一人ひとりが当事者として能動的に原因や対策を考えるように教育していく必要がある。
最近、大企業の規則違反のニュースが相次いで大きな話題になっています。
新聞記事を列記してみますと
【日産自動車 無資格者検査によるリコール】
- 国の規定に反して無資格者による完成車の検査が広く行われていた。
- 国内の全工場(組立6工場すべてで)で行われていたとのこと
- 品質に問題は無いのだから大したことは無いというような感覚が全社的に広まっていったのでしょうか。
- 不正が社内では正統性を持って形で管理されていたこと
- 資格者を増やすという努力はされていなかったのでしょうか?
- 経営層の生産への要求が強く、現場は対応できなかったのでしょうか?
- 問題発覚後、社長が謝罪した以後も4工場で不正が継続されていた!
- 国の立ち入り検査で発覚したとなっているが、国への報告は書類改ざんで意図的に不正が隠されていた! (確信犯!?)
SUBARUにおいても、日産自動車と同様の無資格者による完成車検査の不正が続いていました。
自動車業界については、これ以外にも「三菱自動車による燃費不正データ」「スズキの燃費の測定方法不正」「タカタの欠陥エアバック問題」等が浮かび上がってきます。
【神戸製鋼所--データ改ざん】
- データーが改ざんされた不良品(規定品質不一致品)を出荷していた
- 全社においてこの不正が行われていた
- 神鋼データ改ざん 性能より納入優先 組織ぐるみの不正認める
- 管理職も含め少なくとも数十人がかかわっており、不正が組織ぐるみだったことも明らかになった。
- 昨年9月から今年8月末まで強度や寸法などのデータを偽装していた。
- 神戸製鋼所の品質検査データの改ざん問題で、不正が数十年前から続いていたことがOBなど同社関係者への取材で分かった。
- 同社は約10年前から改ざんがあったと説明しているが、開始時期はさらにさかのぼることになる。
- 組織的に不正を繰り返す同社の体質が改めて浮かび上がった。
- データの不正はアルミニウムや銅といった素材に留まらず、最終製品を扱う機械部門まで波及!
子会社等のJIS認証取り消し等も含め日増しに不正の発覚が増えています!
「商工中金--不正融資問題」も話題になっています。
一流企業で行われていた規則違反!
日本が誇りとしていた「品質管理」の崩壊とも言われています。
ハイレベルの管理を要求され、それを維持していくとなると、長年の間に緩みが生じるのは致し方のないことなのでしょうか?
経営層が進めた管理体制の緩慢な後退、コストやスケジュール優先の職場風土、作業マニュアル等の形骸化、教育の欠如など安全文化の緩やかな崩壊が感じられます。
過去において、品質管理等の体制構築およびその維持に努力されてきた人達が時間の経過と共に退職していき、人は入れ替わっていきます。
形式だけが残り、魂を込めて維持されていたシステムは形骸化していきます。
人の世の弱点というものでしょうか。
上記中村先生が指摘されているように「定期的に再評価する」というようなシステムを長い時間のスパンで(累代に渡って)構築していく必要があるように感じます。
これらの事件を機に、「間違った方向に進んでいっているかもしれない経営管理の再評価」と「精神の原点回帰」が望まれるように感じられます。
<付記>
新聞記事によれば、自動車の完成車検査については、自動車メーカーが認定した従業員が検査するように、国土交通省の通達で示されているとのことです。
「知識や技能で一律の公的な基準は定めず、各社が独自に資格試験を実施するなどメーカー任せの制度になっているのが実態」
だそうです。
これでは、メーカー側の自主管理的な面が出て、生産性重視の経営圧力の下、長年の運営において安易な方向に向かっていくという構図が想像できます。