二酸化炭素消火設備事故について

2021年4月15日二酸化炭素消火設備による死亡事故が発生しました。
当時の記事を引用します

<日経アーキテクチャ2021/4/26記事>

二酸化炭素を消火剤とする不活性ガス消火設備(以下、二酸化炭素消火設備)の誤作動・誤操作による事故が相次いでいる。
2021年4月15日には、東京都新宿区下落合に立つマンション「目白御留山デュープレックス」の地下駐車場で、天井の張り替え工事中に二酸化炭素消火設備が作動。
駐車場内に二酸化炭素が充満し、作業員4人が死亡、2人が負傷した。
警視庁は21年4月20日、工事を請け負った株木建設(水戸市)を業務上過失致死傷の容疑で家宅捜索した。

目白御留山デュープレックスは03年2月に完成した地下1階・地上4階建てのマンション。
地下は機械式の駐車場となっており、普段は人が立ち入ることはなかったが、事故当日は7人が老朽化した天井の張り替え工事をしていた。
株木建設によると、工事は2日に分けて行う予定で、事故当日は初日だった。
死傷者6人は一次下請け会社の社員だという。

警視庁は、工事中に何らかの理由で消火設備が作動して防火扉が閉まり、作業員が閉じ込められた可能性があるとみて捜査を進めている。

その後、事故の真相について、下記の報道がされています

マンションの立体駐車場の地下1階で男性作業員6人が天井板の張り替え工事を行っていた際に起きた。
天井に熱の感知器4個、煙の感知器8個の計12個があり、時間差があっても両方の感知器が作動すると、壁の高さ約1.5メートルにある噴出口8カ所から二酸化炭素が出る。

二酸化炭素が噴出した2時間半前の午後2時ごろ、初めに熱の感知器が作動。
火の気はなく、作業員が複数の感知器を付けたり外したりした際、感知器が誤作動したとみられる。

工事の元請けは消防設備士などの有資格者を立ち会わせていなかった。
ガスの閉止弁を閉めたり、設備の電源を落としたりせずに下請けに作業させた。

「作業者がその機能を知らずに感知器を付けたり外したりした!」とあります
教育を受けない限りその危険性、機構等については知り得ません!
私の以前のBlogで、ビルの利用者が誤って駐車場内に入ってしまい、二酸化炭素消火設備の起動スイッチを暗闇のなかで操作してしまったという死亡事故に触れましたが、一般の人は二酸化炭素消火設備について知りません。

今回の事故は、請負業者の無知(専門外)と準備不足によるものです。
また管理者サイドにおいては、専門家を不在にさせた等の管理怠慢でもあります。

<経済産業省HPでは>

令和3年4月15日、東京都新宿区のマンション地下1階駐車場において、内装業者が天井ボードの貼り替え作業を行っていたところ何らかの原因で二酸化炭素消火設備が作動し、取り残された作業員4名が死亡、1人が意識不明の重体となる事故が発生しました。
昨年末以降、令和3年1月23日、東京都港区のビル地下1階駐車場内ボンベ室において、二酸化炭素消火設備の点検作業(作動点検等)中、二酸化炭素が放出し、ビルメンテナンスの作業員2名が死亡される事故、令和2年12月22日、愛知県名古屋市のホテルの機械式立体駐車場において、メンテナンス作業中、二酸化炭素消火設備から二酸化炭素が放出し、1名が死亡、10名が重軽傷を負う事故が発生しています。
いずれの事故も、高圧ガスである二酸化炭素等を利用しており、不適切な取扱いをすると、人的被害が発生する恐れがあります。
二酸化炭素等消火設備の設置者、メンテナンス事業者等関係者におかれては、不活性ガス消火設備設置場所に立ち入る場合には十分に危険性を認識した上で、安全な取扱い等にご注意いただきますよう、よろしくお願いいたします。

その他、消防庁、厚生労働省、高圧ガス保安協会も、そのHPにも同じ主旨の注意記事を載せています。

先の「日経アーキテクチャ2021/4/26記事」を引用します

二酸化炭素消火設備は、火災時に二酸化炭素を室内に放出して空気中の酸素濃度を下げることで消火する設備。
消防法や同法施行令などでは、ボイラー室のような多量の火気を使用する場所や通信機器室、普段は人が立ち入らない機械式立体地下駐車場などへの設置を認めている。

事故を受けて総務省消防庁は21年4月15日、各都道府県の消防防災主管部長や日本消防設備安全センター(東京・港)、日本消火装置工業会(東京・港)、立体駐車場工業会(東京・中央)などに対して通知を発出した。

通知では、二酸化炭素消火設備の設置場所付近で工事などを行う場合は、(1)消防設備士または消防設備点検資格者が立ち会って監督し、安全対策を管理できる体制を確保すること、(2)消火剤を放出しないように閉止弁を閉めるといった措置を講じてから工事などを開始すること――の2点を徹底して、安全を確保するよう求めた。

筆者は二酸化炭素消火設備が備えられた機械駐車場に鉄製の防火扉を隔てて隣接する電気室で執務していた経験があります。
二酸化炭素放出時の扉等の隙間からの漏れの危険感を抱き、放出時にはすぐに避難しなければという意識を持っていました。
また、駐車場内へは、専門点検業者の定期的な立ち入り、或いは必要時の点検立ち入り等もあり、誤った操作による放出(放出後の立入禁止、放出後の換気時間等も含めて)の危険意識は常にありました。

二酸化炭素消火設備については、その機構を知ることが大切で、操作の手順を間違えば大変なことになりかねません。
しかし、その操作機構等の使用者側への説明・伝達は口頭が主で、結構拙い(粗い)ものであったと記憶しています。
(これは、もう40年以上も前の話で、今はもっとスマートで分かりやすいものになっていると思いますが---)

火災の発生・拡大は勿論最優先で避けなければならないことであり、そのリスク低減策として備えられた設備もまた危険源としての大きなリスクを持っています。
大きな事故対しては強いリスク対応策と成らざるを得ないという面もあります。
そしてそれを、社会的には許容可能な範囲で受け入れざるを得ないというのが実状です。
しかし、その対応策にもリスクが存在しているという認識は不可欠です。
そしてその認識も、関係者においては、単なる知識としてではなく、その残留リスクを精確に知っておく必要があるということです。
これは、痛ましい事故として何回も繰り返されている警告であり、事故を起こした後の多くのマイナス要素を考えると、関係者においては自然と対応の方向性は出てくると思います。

「二酸化炭素消火設備は、東京都内では今も3,500件が稼働している」とのことです。
全国においては相当数にのぼるものと推察されます。