BMドクターG⑦:“設備の経年劣化”とトラブル<1>

『ビル管理のドクターG』
 ビル管理技術者は「ビルの総合診療医(ドクター・ゼネラル)」?!


 古い「ビル防災」の本を眺めていたら、「ビル管理はビルのお医者さん」という小見出しがありました。
 ビルの設備等の維持管理に関する様々な課題が持ち込まれ、それらをカバーしなければならないビル設備管理技術者は、多岐にわたる建築設備の管理に関する知識と資格をカバーするビル運営を支える存在。
「ビルのお医者さん」という小見出し、なかなか的を射ているように感じました。
NHK-BSで放送されていた『総合診療医ドクターG』を模倣して、「ビル管理(BM)のドクター・ゼネラル」と格好をつけてみました。
その理想像も探りながら話題にしてみたいと思います。

厚生労働省より「設備の経年化による労働災害リスクと防止対策」が示されています。
生産設備についての経年劣化の調査結果をもとにした労働災害防止について、「設備管理の要点」が示されています。
建築設備管理においても共通項を見出すことができ、設備の「経年変化(時間要素)に関わるハザード」の検討として捉えることができます。
また突発事故への対応時の危険性(事故の拡大&負傷の発生)を検討するうえでも参考になります。

ピックアップして列記してみます

「装置産業である金属、化学、石油、製紙、セメントなどの業界では、高度経済成長下の生産拡大期に設置された生産設備が多く、設置から30年以上経過した生産設備が多数を占める事業場が多くなっている現状」

これは建築設備においても同じことが言えると思います。
30年以上経過したビルも多く存在しています。
(既存ビル全体でも大きな割合を占めていると思われます)

労働災害は「不安全状態」と「不安全行動」が重なることによって起きるといわれています。
「経年化設備」には、「設備の劣化」や「設備の故障」といった経年に基づく現象や、設置時に講じた保護方策が時間の経過により現在の安全水準からみて不十分なものとなった結果生じた「保護方策の不備」などに起因する「不安全状態」があります。
これらに「管理面」及び「作業面」での「不安全行動」の要因を加味して「経年化設備による労働災害リスク」について検討しました。

老朽化設備への対応においては、建築設備においても共通した問題です。
調査では労働災害を対象としていますが、設備管理上のトラブル対応という視点においても参考となります。

また、設備劣化による労働災害リスクとして下記が挙げられていますが、これは建築設備管理においても当てはまります。
「労働災害リスク」を「事故故障トラブルリスク」と読み替えて考えることもできます。

  1. 経年化設備の問題(Machine)
    ・設備の劣化や設備の故障に起因する労働災害リスク
    ・保護方策の不備に起因する労働災害リスク
  2. ベテランの退職等による技術・技能喪失の問題(Man)
    ・ベテランの退職による技術・技能伝承の問題に起因する労働災害リスク
    ・経験年数の短い作業者の労働災害リスク
  3. 経年化設備に対する管理の不備の問題(Management)
    ・労働安全衛生マネジメントシステムが適切に運用されていないことに起因する労働災害リスク
    ・リスクアセスメントが適切に行われていないことに起因する労働災害リスク
    ・ヒヤリハット活動、危険予知活動などが適切に行われていないことに起因する労働災害リスク
  4. 付着、異物除去清掃作業における問題(Material)
    ・付着、異物の除去清掃作業で発生する「はさまれ、巻き込まれ」災害のリスク
【経年化した機械設備による保護方策の不備】

「隔離原則不備」、「停止原則不備」などの「安全対策が不十分」と回答した事業場が全体の半数あり、設備の経年化とともに割合が増加する傾向がありました。
その理由は「スペースがない」、「予算がない」、「優先順位が低い」などでした。

また、設備の経年により「年間点検回数」、「年間計画外停止回数」、「年間修理回数」などが増加する傾向があり、このことから、「危険点近接作業」や「複数人が広大領域で行う作業(複数人作業時に誤って起動)」などが増加していることが考えられます。

その結果、業種による差はありますが、労働災害を起こした事業場の設備の方が古い設備の割合が高いことが分かりました。
経年化した設備は、潜在的な労働災害リスクを有しているものと考えられます。

(当然の結果と考えますが)老朽化して設備の停止が多くなれば、それへの対応回数も多くなり、それによるトラブルも増えてきます。

付帯設備も30年以上と経年化しており、腐食などの劣化が進んでいます。
劣化した付帯設備では、「墜落、転落」災害などのリスクが潜んでいるといえます。

隔離の原則
隔離の原則に沿った対策とは、作業者が機械に近づいた場合、手、指など体の一部が機械にはさまれたり、巻き込まれたりしないように、機械の駆動部分の近くに保護カバーを付ける、あるいは機械の周りに防護柵を設置して作業者と機械の間に安全な距離を保つ設備的対策を指します。
また、保護カバー、防護柵、進入防止柵が許可なく取り外されたり、許可なく立ち入ったりしないように柵の扉やカバーに鍵を掛け、鍵は作業責任者が保管します。

停止の原則
停止の原則に沿った対策とは、人が稼働中の機械に接近したとき、あるいは防護柵の中に入ろうとして扉を開けたとき、あるいは防護カバーを取り外したときに、インターロックで機械を自動的に緊急停止する対策を指します。

【経年化設備に対する管理の不備の問題 から見た労働災害リスク】

事業者(管理者)によって、経年化設備に対する作業管理方法やマネジメント方法には違いが見られました。
経年化設備に対して、マネジメントシステム、社内基準、マニュアル、ガイドライン、有効なリスクアセスメントの実施、各種安全活動、設備の点検方法など管理面、設備面での工夫が必要だと考えられます。

  • 災害の有無にかかわらず、高経年設備ほど点検回数、計画外停止回数、修理回数の割合が増加する傾向にあります。
  • 各経年数において、災害有設備は災害無設備よりも点検回数、計画外停止回数、修理回数の割合が多い傾向にあります。

これらにどのように対応するか、管理の問題として捉えることができます。

アンケート結果にもとづいて、「はさまれ、巻き込まれ」災害の背景的要因について、また、設備の経年化の影響、災害のリスク、災害防止の方策をスイスチーズモデルが示されています。

原因(設備要因)でみると「隔離の原則」である隙間対策や接触防止対策が不十分であり、原因(人的要因、管理要因、作業環境要因)からみると「省略行為」や「確認不足」によるものが多く、死傷者の多くは経験年数の短い作業者でした。
これらの災害は、第1 のスイスチーズ(設備的対策)により防止できるはずですが、隙間対策や接触防止対策またインターロックによる停止対策などが不十分であり、しかも第2 のスイスチーズ(人的、管理的対策)が不十分であったために、チーズに開いた穴をすり抜けるようにして災害に至ったと考えられます。

以上分かり易く設備経年劣化によるリスクが説明されています。

<参考>設備経年劣化による災害リスクとその防止