『ビル管理のドクターG』
ビル管理技術者は「ビルの総合診療医(ドクター・ゼネラル)」?!
古い「ビル防災」の本を眺めていたら、「ビル管理はビルのお医者さん」という小見出しがありました。
ビルの設備等の維持管理に関する様々な課題が持ち込まれ、それらをカバーしなければならないビル設備管理技術者は、多岐にわたる建築設備の管理に関する知識と資格をカバーするビル運営を支える存在。
「ビルのお医者さん」という小見出し、なかなか的を射ているように感じました。
NHK-BSで放送されていた『総合診療医ドクターG』を模倣して、「ビル管理(BM)のドクター・ゼネラル」と格好をつけてみました。
その理想像も探りながら話題にしてみたいと思います。
前号に引き続き「職長教育講習の内容項目」の「③適性配置 ④設備の改善 ⑤環境の改善・保持」について、まとめる(統括する)立場としての“BMドクターG(設備管理主任)”の業務と関連付けてみたいと思います。
何らかのヒントとなればと思います。
詳しくは、これをきっかけに、テキストに当たられて、その内容を確認願えたらと思っています。
「職長の安全衛生テキスト」(中央労働災害防止協会)
③適性配置について
法的資格者の配置は業務の前提条件となりますが、個々の作業の特性と作業者の特性を考慮した作業配置についての考慮が示されています。
管理責任者は、特に初心者には気を配る必要があります。
そもそも、設備管理業務の大略を理解した上での就業だと考えますが、就業してから業務の実態を認識するということもあります。
建設工事現場災害における作業者の入場後経過日数別の調査では、災害全体の65%が1週間以内で発生している(入場初日で35%、2日以上1週間以内で30%)という分析があるそうです。
業種によるは違いはありますが、傾向は把握できます。
雇い入れ時の安全衛生教育を踏まえたうえで、管理主任の配慮の必要性を示すものです。
また、高年齢者への配慮について近年注意が向けられています。
2020年3月には「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」が公表されています。
高齢者の雇用及び就業について多くの資料も示されており参考になると思います。
④設備の改善について
設備の管理においては、先ずリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいて設備のリスク低減対策を考えるという手法については記してきました。
しかし、設備管理は、建築段階における計画・設計・施工の次の段階で、使用者の立場での対応という位置付けになります。
つまり、設計・施工の過程でリスク低減策を講じた後の「残留リスク」への対応が主となります。
従って、建築過程で講じられたリスク対応策を十分理解した上での対応が必要となります。
ここに、設計・施工側の説明と管理側の力量の問題、業界の暗黙知、或いは常識というグレーゾーンの問題が浮き上がってきます。
このグレーゾーンを“無知”を前提として対応する「安全確認型」の意思の疏通(コミュニケーション)が望まれるところです。
(言うは易く、実現は結構難しい場面があると思いますが、設備管理責任者の積極的なリーダーシップを期待するところです。)
個々の設備の管理技量(管理クルーとしての技量)については、業務の核となる領域です。
設備管理責任者のリーダーシップ或いは各設備管理者の努力に負う面もありますが、これまでも記してきたように、設備機器或いは対象範囲の的を絞ったリスクアセスメントを順次深めていくことがポイントになります。
建築設備管理における「管理リスク」の検討においては、次のような2方向からの検討も考えられます。
①各設備或いは部品の故障が発生したと想定して、それがどのようなリスクとなるかを検討していく
②事故・故障等のトラブル事象を想定して、それを引き起こすリスクとなる原因系を検討していく
法規において、配置すべき管理資格者及び安全衛生上の管理すべき事項の大筋が定められており、それに従うことが業務の前提条件になります。
(法的に設備管理業務を理由付けしバックアップしてくれているともいえます。)
⑤環境改善の方法と環境条件の保持について
建築物の労働衛生については「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」により環境基準が定められています。
(一定規模以上の場合は特定建築物として規制されています。)
従って、先ずこの基準への準拠が環境管理上のポイントとなります。
また、労働衛生管理においては「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」が挙げられています。
その内容については、中災防の「労働衛生のしおり」等で概要を把握し、より深くはその分野の専門文献等を参考にすることになります。
テキスト(職長の安全衛生テキスト)により、環境・健康管理における課題&問題点の主なものをピックアップしてみます。
<物理的要因>
・暑熱(熱中症)
・騒音
・腰への負担(腰痛)
・有害光線
・電気放射線
・超音波
・異常気圧
・振動
<化学的要因>
・硫化水素中毒
・酸素欠乏症
・粉じん障害
・有機溶剤中毒
・特定化学物質による障害
・その他化学物質による障害
<生物的要因>
・細菌による中毒
・ウイルスによる感染)
<社会的要因>
・各種ストレス関連疾患
個々の建築物の環境衛生管理においては、各施設の状況に応じて対応していくことになります。
また、環境管理の課題として下記の5要素が挙げられることもあります。
『環境管理の5要素:安全・衛生(健康)、快適、利便、経済性』
以前にも記したと思いますが、建築物の設備管理は、その業務自体が安全衛生管理のライン上にあり、「建築物の安全衛生管理業務」とも捉え得ると思います。
<以下次号に続く>