「元重役がボケて窓際族がボケなかった」

湘南長寿園病院院長のフレディ松川先生の「ボケる人ボケない人」
“ボケ”について、いろいろ示唆に富む実話が、専門医の立場で書かれています。
その中で、特に注意を引く小見出しがあります。
「元重役がボケ、窓際族がボケなかった理由」


あるときYさんが内臓疾患で入院してきた。
ところが同じ病院にYさんの先輩二人がすでに入院していた。
一人はEさんで、Yさんが勤めていた会社の元専務であった人。
Eさんには軽い認知症があり、病院内で威張り散らしていて、周囲も困っていたとのこと。
もう一人はWさん。
この人もYさんの上司だった人で、取締役であったとのこと。
Yさんは二人とそんなに年は変わらないものの、出世が遅れ、定年前は仕事もなく、いわゆる窓際族であった。
松川先生は、この三人に注意を向けられた。

朝、出合うとYさんから挨拶をするというように、この三人は、病院内でもまったく会社時代と同じ関係が続いたとのこと。

やがて、元専務だったEさんが完全にボケの世界へと入っていった。
そして、それから数ヵ月後にWさんにボケの症状が強く現れるようになった。
ところがYさんは、最後までボケることはなかった。

先生曰く「この原因は、家庭環境にあった。」

威張り散らしていたEさんは、きっと家庭内でも同じであったのだろう。
入院した当初は家族が来ていたが、その後はプッツリと現れない。
一度重い病気になったとき、家に電話を入れても「はい、わかりました」と言ったきりで、家族は駆けつけようとしなかった。
Wさんの家庭は、月に一度か二度、娘さん夫婦が現れるだけで、奥さんは元気なのにまったく顔を出さないとのこと。
それに比べ、Yさんの家族は、ほとんど毎日のように家族のうちの誰かが見舞いとその世話にやって来ていた。

先生がYさんと話をすると、Yさんは恥ずかしそうに、こう言ったそうです
「先生、私はどちらかと言えば、マイホーム亭主で、家庭を一番大事にしてきました。
 だから会社では、かなり馬鹿にされていましたが、いま思うと、家族を大切にしてよかったと思いますね」
その後、Yさんは、家族に囲まれて、幸せに退院していったとのことです。


世間では評価され、目標とされる“出世”とか“成功”ですが、“幸福”という基準で見ると必ずしもそれだけではないのではないか?!
考えさせられる話です。