感覚器の処理能力について

「機械は壊れ、人はミスをする」と言われますが、人が犯すエラー(ヒューマンエラー)にもいろいろあります。
最近、十数年前の雑誌「安全と健康」に載っていた日本エアシステム機長塚原利夫氏の記事を読む機会があったのですが、“人間の感覚器の特性限界”について再認識する点がありました。

脳は、コンピューターのようにプログラムが事前に組まれていなくでも、感覚器による多様な情報を処理して行動することが出来る。
しかし、その多様性の故にエラーを発生させる宿命も持っているとのこと。
その処理能力は、元早稲田大学人間科学部教授、日本ヒューマンファクター研究所初代所長の黒田勲先生の資料によると

  • 視覚は 3×106bit/sec(1秒間に3×10の6乗個処理)と最も高い
  • 聴覚は 3×104bit/secであり、視覚の100分の1の処理能力。        --まさに「百聞は一見にしかず」!
  • この「視覚」「聴覚」に比べ、「味覚」「臭覚」「触覚」「痛覚」「温覚」「冷覚」の処理能力は低いとなっている。
  • そして、すべての感覚器の入力容量は109bit/secと考えられているとのこと。

一方、脳の中枢における最大処理能力は102bit/sec

つまり、入力情報の1,000万分の1しか処理できないということ!

また、この最大処理能力は常時維持されるのではなく、通常はせいぜい6~7bit/secだとのこと!

このことは、脳に到達した情報は単一チャンネルでしか処理されないということを意味しており、脳の中枢情報処理は、同時に二つのことができないようになっているとのことです。
新聞を読みながらテレビを聞いていても、断片的な情報把握になっているということです。
テレビの「刑事コロンボ」を見ながらパソコンで文章を作っていたら、コロンボの推理がまったく理解できず、改めて見直したことがあります!


この「大量の入力情報に対応できる中枢処理能力がない点が人間の大きな弱点」ということです。
しかし、この人間の弱点に対応する工夫が凝らされているとのことです。

第一は、「前処理過程での情報の絞り込み」だそうです。
生活体験や教育、訓練、作業の日的などにより、情報圧縮や情報選択、特性による濾過、尺度化、編集、コード化、平均化などの処理が行われます。
また、少量の中枢処理しかできないということは大量の情報を捨てていることであり、ここに「不注意」のメカニズムが特性的に内蔵されているとのことです。

第二の工夫は、「短期記憶」で一時的に保持しておいて、中枢処理が空きしだい処理しようという機構です。
しかし、この機構の容量は、一度に記憶できる数は「7±2」個と小さい上に、再生までに許される時間が10から20秒程度と非常に短く、しかも、他からの情報が入ると消去されてしまうとのことです。

そして、もう一つ工夫は、入力情報からすぐに操作できるよう出力に直接つながる短絡回路が設置されていることだそうですが、これは反面、中枢処理や記憶回路が関与しないために、熟練者の「ポカミス」が生じる可能性があるとのことです。


最近物忘れを感じる機会が増え、短期記憶には特に不安を感じ始めていたのですが、“ヒューマン・ファクター”“ヒューマン・エラー”の身近さを再確認した次第です。