“安全文化”について ②

<トップの強い意志>

長年企業の安全活動に携わられたある先輩は言われます。

「安全はすべてに優先させるトップポリシー」とすることは誰も異論がないだろう。
しかし、もっと大事なのは、それを具体的に表現して実践しているか、短期決戦ではなく、こだわりを持って現場目線で実践し続けているかということである。

このような視点を持つ経営トップはいますか? ということです。
先輩は続けます。

ある会社の経営者は、部下への安全活動の訓話の最後に「(業務の進み具合についても)良く考えてやるように…」と付け加える癖があった。
生産も品質も安全も一生懸命やろうと言っておいて最後にこの言葉を出すことで、現場の人は「生産第一にやれ」と読み取っていたのだ。
結局、災害は減少しなかった。


最近ある講演で聞いた話しです。
その講演者が工場ラインの従業員であったころの話です。仮に「Aさん」とします。
そのAさんの職場の職長は「結果(生産高)がよければすべて良し」という価値観を公言して部下を指揮していたそうです。
つまり生産性が上がれば「良い仕事をしている」という明快な評価基準です。
そして、その職長がいつも褒めていた優秀な部下がいたそうです。「Bさん」とします。
Aさんも一生懸命仕事をしたのですが、Bさんには追いつきません。
そこでBさんの仕事ぶりをずっと観察しました。
そして、Bさんの優秀な理由が分かったそうです。
Bさんは、周りに人が居るときは、決められた作業手順で仕事をします。
ところが、人が居なくなると、決められた手順を守らず、止めるべきときに機械を止めないで、つまり機械を動かしたままの危ない作業をしていたそうです。機械を止めないからサーカスのような作業で仕事量は増えます。
若かったAさんは、ハタと得心しました。
「これがベテランの仕事!」
そして、Bさんの仕事を真似たそうです。
職長からは、「少しは上達した」と褒められます。
仕事を知った思いがしました。
ところが、ある時、Aさんは手に災害を負う羽目になりました。
職長からは叱られます。(生産性が落ちたと!)

ところが、それから少し経って、その職長が神妙な顔をしてAさんに謝りに来たそうです。
その変化にビックリしたAさんが問いますと、「工場長にひどく叱られ、自分も反省した」とのことです。
工場長に“人が傷害を受けるということの重み”をとくとくと説かれたとのことでした。


“トップの持つ考え方”の重要性という話です。
ほとんどの場合は、この職長の判断基準が本音レベルです。
こういう工場長のようなトップが居ることは会社にとっての財産だと思います。

IMG_3368-2