厚生労働省より、陸運業の荷役作業における安全対策を推進するため、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」が平成25年に公表されています。
このガイドラインは、陸運業における荷役作業の労働災害が全産業の労働災害の10%を占めるまでになり、その減少傾向が見えないことから、陸運事業者と荷主等(荷主、配送先、元請事業者等)が連携し、陸運業の荷役災害の防止を進めるために策定されたものです。
最近ある機会があり、このガイドラインに少々関わることになったのですが、この業界のことは深くは知らなかったのでいい勉強になっています。
しかし、はたと気付く(再認識する)ことがありました。
一つは、業務の連携についてです。
最近は請負契約ということで、自社の業務の一部を一括下請とするような業務形態が多くなっています。
「リスクの移転」という面でも、中核業務以外のまとまった業務を専門事業者に任せた方が都合がよい場合があります。
そのような場合、請け負った業務の管理は一切を請負業者が管理することになります。
従って、当然にその業務に関する労働災害の防止は請負業者の責務になります。
ところが、そのような区切りだけでは不都合を生じるような業務形態も出てきます。
陸運業者における荷役作業もこのケースです。
通常の場合、陸運業者の運転手は、荷主(客先)の構内で荷を積んで、荷送先(客先の客先)へ荷を届け、そこで荷卸しをします。
荷役の作業の場は客先です。
その客先で、荷の積み卸しという危険な作業を実施することになります。
ところが、荷の積み卸し作業には安全管理上のさまざまな課題があります。
・荷台上からの墜落/転落災害
・フォークリフト等運搬機械による災害
・ロールボックスパレット等の運搬用具による災害
・床面での転倒災害
・重い物を持つことによる腰痛 等々
荷役作業においては、荷主側の作業者の災害も発生していますが、多くは運転手の災害です。
荷主側と作業者との共同作業においても、荷台に上がるのは運転手になります。
そこで、そのような作業或いは作業環境において、「荷主側の配慮はどこまでありますか?」という課題が生じます。
請負契約においては、「請負に出しているから当社(荷主)は関係ない!」「A地点からB地点へ運ぶ契約である」というような割り切りで判断されがちですが、それで済ませることのできない問題(労働災害)が生じています。
ここで、国の関与によるガイドラインの策定となり、ガイドラインではお互い(陸運業者と荷主企業)の役割分担等の明確化を求めているのですが、その理解を荷主サイドに何処まで徹底し得るかという課題が出てきます。
また、この配慮を配送先事業者に何処まで要求できるかという問題にも直面します。
陸運業者が契約するのは、配送先事業者ではなく荷主です。
配送先は、荷主(契約先)にとっての客先である場合が多く、陸運事業者の運転手への配慮を荷主側から強く要求できないという事情があります。
これについては、「陸運事業者の運転手の被災場所は約7割が荷主先であるが、その内、積み込み場所が37%、荷下ろし場所が63%と荷下ろし場所の方が圧倒的に多い。」というデータにも現れています。
以上のような業界事情が判りました。
しかし、これは陸運業界だけに限る問題ではありません。
ひろく世間一般の業種・業界間にも言い得る問題です。
契約という割り切りだけではうまくいかない。
それを補う(危険をカバーし合う)緩衝材となる思考(思想)が必要となります。
「次工程はお客様!」
一歩進めて「業務は相補関係」「下請業者もお客様」的思いやりのある企業間関係。
それには、効率追及onlyの「頑張れ!頑張れ」「more!& more!」だけではないゆとりのある経営。
(ストレスの少ない経営)
人口が減り、縮む社会はこれまでに経験したことのない事態と言われます。
そのような状況下において、長期的に良好な関係を構築できる思想の形成が是非とも必要です。
労働安全における対応策の模索は、そのひとつの方向性を示しているように思うのですが---