[WAI]と[WAD]

前月話題にした[Safety-Ⅰ][Safety-Ⅱ]、そのホルナゲル氏の訳書に[WAI][WAD]という言葉が出てきます。
[WAI]とは「Work-As-Imagined」で、「行うことが期待された作業」のこと
[WAD]は「Work-As-Done」で、「実際になされた作業」のこと
だそうです。

[WAI]は主に計画者(管理者)の視点、[WAD]は主に実践者(作業者)の視点と説明されています。
そして、この[WAI]と[WAD]の間には、相当のズレが生じ、作業者はこのズレを当たり前と受けとめ、管理者はこのズレを理解するのは容易でないと指摘されています。
また、「管理者は管理者としての[WAD]が存在するのに、そのことをほとんどまったく見ていない。」ともいわれています。

[WAI][WAD]と安全管理については、ホルナゲル氏は下記のように指摘されています。


安全は、[WAD]を[WAI]と完全に一致させるようにすることで達成できるものとされてきた。
(中略)
しかし、極めて単純化された作業は例外として、これは現実的な想定ではない。
遂行される作業、すなわち[WAD]はシンプルではないし、[WAI]のように予測可能でもない。
つねに人間が現実の状況に合わせて作業を調整しなければならない。
現実の状況は予測とは異なるし、多くの場合には大きく異なる。
これが[Safety-Ⅱ]の本質であるパフォーマンス調整であり、パフォーマンスの変動である。


計画と実施結果の差異をチェックすることは、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action のマネジメントサイクル)においてC(Check)の段階として指摘されていることでありますが、平素は素通りしてしまう点でもあります。
この[WAI]&[WAD]という視点はこの点に関する別の視点であるとも言えます。

身近な例として、“旅行” が思い当たります。

初めての場所へ旅行に出かけるとき、先ず情報集めをします。
一般的には、文献或いはネット等で情報を得て、行く先を選定することになります。
そして、行き先の場面に思いをめぐらします。
到着時刻、所要・移動時間等も考えます。
しかし、それらは漠とした想定です。

それが、実際に現地へのアプローチの段階となりますと、
交通渋滞に巻き込まれたり、ナビが違う経路を選定しているのを見逃したりして慌てることになります。
目的地に到着しても、駐車場への経路が分からず、目的地の周囲をグルグル回ったりします。
そのようにして、想定していたことが一つひとつ具体的に確定されていきます。
そして旅行を終えたときには、それぞれが具体的な体験として記憶に残ることになります。

そして後日、その旅行先の情報に触れたりしたとき、それらの体験をもとに、親近感のある想像が生まれてきます。

ホルナゲル氏の文献は訳書でもあり、取っ付きにくいのですが、日常に新たな視点を与えてくれる良書です。