「扱いにくいシステム」

前月も話題にした[Safety-Ⅰ][Safety-Ⅱ]、ホルナゲル氏はその中で、「扱いやすいシステム」「扱いにくいシステム」を指摘されています。

「扱いにくいシステム」とは、人と組織が絡んでくるシステム(社会技術システム)で、次のような特徴があります。

  • 詳細な項目が多く、説明が困難。
  • 機能原理が分かりにくい。
  • システムの状態が絶えず変化する。
  • 他のシステムとの相互依存的関係が強い。
  • 制御できる可能性が低い(制御しにくい)  等々

つまり、その環境を完全に規定することもできないし、もちろん一定にもできない。
そして、機能を維持し続けるには、変動が大きすぎる場合には過剰な変動を吸収し、変動が小さすぎる場合には変動を与えるように、「サブシステム間」または「システム–環境間」でバッファ的役割が果たされている。

「扱いやすいシステム」とは、機械論的システムで、上記と対比して、次のような特徴が示されています。

  • 説明がし易く、また分かり易い(機能原理が分かっている)
  • システムの状態が変化しない
  • 他のシステムとの独立性を保っている
  • 制御可能性が高い(制御しやすい) 等々

現実の状況は、複雑化して「扱いにくいシステム」になっているのに、「扱いやすいシステム」で考えている(そう教えられてきている)。
そして、この差異(ギャップ)にレジリエンス的に対応してきている!
そこで、「扱いにくいシステム」へと「視点を変えなければ」と指摘をされています。
これは、現実を考えれば察しがつきます。
つまり、私たちは簡易な機械論的モデルで現実を考えさせられている(教え込まれている)ということ?!

そして、
個人のレベルでも社会におけるグループや組織のレベルでも、パフォーマンスの変動は避けることができない。
いや寧ろ、複雑なシステムにおいては、パフォーマンスの変動は必要なものである。
今までの機械論的システムでは、人的要因はシステムにとってエラーを引き起こす負の要因(脅威)として考えられてきたが、パフォーマンスの変動の必要性を価値と認めるならば、人的要因はシステム安全の財産であり、不可欠な存在となる。
そして、このような認識はユックリと拡大してきている。
とされています。

さらに、この複雑な「扱いにくいシステム」において、人間がその役割に適うようになるには、事故分析とリスク評価において、次のことを知っておかなければならないと指摘されています。

  • システムは完璧では無い。
    したがって人間は、設計上の欠陥や機能上の故障を特定し、克服できるように学んでいかなくてはならない。
  • 人間は現実の要求を認識することができるし、それに応じてパフォーマンスを調整することができる。
  • 何らかの手順が適用されなくてはならない場合、人間はその状況に合うように手順を解釈したり運用したりすることができる。
  • 異常が発生した場合、または異常発生しそうな場合、人間はそれを検出し、修正することができる。
    つまり、状況が悪化する前にある介入をすることができる。

このようなシステムは多くの場合、信頼性が高い。
それは、システムが完璧に設計されているからではなく、寧ろ人間が柔軟に適応的に動くからである。
この考えのもとでは、人間はもはや負の存在ではないし、パフォーマンスの変動は脅威ではない。
逆に、日常におけるパフォーマンスの変動は、システムが機能するために必要な要素であり、失敗の要因でありながら同時に成功の要因でもある。
失敗も成功も、いずれもパフォーマンスの変動に依存しているのであれば、パフォーマンスの変動を取り除くことによって失敗を防ぐことはできない。
言い換えれば、作業がどう行われるかに厳しい制約を与えることによって、安全を管理することはできないということである。
その代わりに有効となるのは、日常のパフォーマンスの変動がどこでどう結びついて望ましくない結果をもたらす可能性があるのか、その状況を特定すること、そして制御不能となる恐れがある場合には介入してパフォーマンスの変動を抑えられるようにシステムの機能を継続的に監視することである。
同時に、変動が有効な効果をもたらしうる状況にも注意して、それをどう管理し、強化するのがよいのかを知っておく必要がある。

以上引用が長くなりましたが、人が介在する複雑化したシステム下においては、単なるマニュアル人間ではなく、考え・行動する要素が不可欠であると指摘されています。
そして、その実施には「日常のパフォーマンスがどう結びついて望ましくない結果をもたらす可能性があるのかその状況を特定すること」、つまりリスクアセスメント的なアプローチを実施し、「システムの機能を継続的に監視すること」、つまりマネジメントシステムを形成することと言われています。

以上について解釈・理解を深めるには、ある程度の時間が必要と思われますが、人が介在するシステムにおいて日常的に行われているであろう内容に新たな視点を示してくれていると感じます。
もちろん、当筆の関係するメンテナンスという分野でも当てはまると感じて学ばせていただいています。
リスクベースド・メンテナンスの形成をバックアップしてくれるのではと考えています。

以上、多分に浅学非才の私的解釈が入っていると思いますが、この点については、ご容赦願いたく存じます。
この記事に目をとめられた方の何かのヒントに成り得たらと思います。