最近、「外壁清掃時の落下事故が増えている」というニュースを読みました。
そのときの出所は忘れましたが、ネットで探すと以下のような記事がありました。
「ビル外窓清掃の男性作業員が転落死 30m落下、命綱なし」
--2019年12月15日の神戸新聞
14日午前9時10分ごろ、兵庫県尼崎市常光寺1の8階建てビルで外窓を清掃中だった清掃業の男性(47)=同市=が約30メートル下の地面に転落した。
男性は搬送先の病院で死亡した。
尼崎東署によると、男性は屋上につないだ2本のロープに渡した板の上で、8階付近の窓の清掃をするところだった。
同署は、板とロープをつなぐベルトが切れて転落したとみている。
命綱は着けていなかったという。
「ビル清掃員の墜落死が相次ぐ 業界へ対策周知を依頼」
--東京労働局
東京労働局は、都内のビルメンテナンス業で死亡災害が多発していることを受けて、ホームページや(公社)東京ビルメンテナンス協会を通じて事業場へ対策の徹底を呼びかけている。
今年に入ってからすでに3人の作業者が、ブランコを使ってビルの窓ガラスを清掃するロープ高所作業中に墜落死している。
1月に発生した災害では、墜落防止のためのライフラインを設けずにメインロープのみで作業をしていた際、ロープが外れて地上へ落下。
2月に起こった事故では、屋上からブランコを使って窓ガラスを拭いていたところ、ロープをくくっていた吊元が強度不足により外れて作業者が墜落した。
同労働局安全課は、「状況は事故ごとに異なるが、いずれも労働安全衛生規則で定められている措置が講じられていなかった」としており、事業者による特別教育の実施と、作業前にメインロープの緊結状態を複数人で確認することなどを求めている。
管内では平成27年以降、ロープ高所作業での墜落災害が19件発生。
うち5件が死亡、9件が3カ月以上の休業となっており、重篤化しやすい傾向にある。
古くから、危険作業として取り上げられているビル外壁清掃時の落下事故です。
遠い昔、筆者にもブランコによる窓ガラス清掃作業を見上げていて、ひやりとした経験があります。
そのときは補助ロープ等の使用がどのようになっていたかまでは気がつかなかった(無知であった)のですが、6or7階のビル屋上から、パラペットにつかまってブランコ台に乗り移ろうとして、足をバタバタしている場面でした。
体の大部分がビルの外に出ているのに、足がなかなかブランコのロープの間に入らず、足をバタバタ動かしているのです。
--ブランコ台へ乗り移る時の危険を感じました。
下から、「あぁ~~」と口を開けて見ていました。
その後、正常な体位を確保できたのですが、手を外せば落下です!
・しっかりした固定枠に取り付けた安全帯をしていたのか?
(そのビルの屋上には、固定用のリングは備わっていなかったのではないかと思うのですが--)
・ブランコ上下移動用のロープ(吊り下げ用ロープ)の強度は?
・補助ロープ(墜落防止用ロープ)はしていたか?
県の安全大会があったビルで、ちょうどブランコによる窓ガラス清掃をしていて、大会終了後、それを見た官庁関係者が安全上の不備を注意したところ、作業者から「そんなことしてたら作業にならん~~」とか言われた!
ということを聞いた覚えもあります。
<ブランコ作業について--法規・指針から一部引用>
高所作業において墜落・転落による災害が発生すると、死亡災害等の重篤な災害となることが多い。
このため、労働安全衛生法令においては、高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合は足場を組み立てる等の方法により作業床を設けることを義務づけており、作業床の設置は高所作業を行う上での大原則となっている。
ブランコ作業は、この原則によらず、作業床を設けないで行う作業であるが、その安全対策は、ロープの緊結、ロープの点検、ロープの切断防止措置及びそれらの確認等、人の注意力や技能に依存する面が大きいという特徴がある。
このことは、ブランコ作業中の下降や停止など、作業における基本動作についても同様である。
このように、ブランコ作業は、死亡災害等の重篤な災害につながりやすい非常にリスクの高い作業である一方で、その安全対策の要点を「人」の注意力や技能に依存せざるを得ないという特徴を有している。
このため、今般、労働安全衛生規則を改正し、「ロープ高所作業」を行う場合、ライフライン設置、作業計画の策定、特別教育の実施などが新たに義務づけられました。
(2016年1月 安全衛生規則539条の2~)
※「ロープ高所作業」
高さが2メートル以上の箇所であつて作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具を用いて、労働者が当該昇降器具により身体を保持しつつ行う作業(40度未満の斜面における作業を除く)。
※「昇降器具」
労働者自らの操作により上昇し、又は降下するための器具であつて、作業箇所の上方にある支持物にロープを緊結してつり下げ、当該ロープに身体保持器具を取り付けたもの。
※「身体保持器具」
労働者の身体を保持するための器具
NHK「プロフェッショナル仕事の流儀:2015/2/2」
5年前に放送されたNHKプロフェッショナル仕事の流儀に、羽生田信之さんという高層ビル外壁清掃のプロが紹介されていました。
<高層ビルぶら下がり30年>
自分の会社の社員の事故をきっかけに安全への取組みを再認識したと言われていました。
「新人は事故を起こさない。ユックリでも注意してやる」
そこから生まれた信念が示されていました
*仕事を、怖がれ
--怖がりの方がモノを考える
*怖がるから、いい仕事になる
--確認して、確認して
「永遠の初心者」でいられることが大切
上記災害事例においては、安全管理がないがしろにされている状況です。
人手不足等の社会情勢も加わり、安全管理に緩みが出ているのでしょうか?
ブランコによる外壁清掃作業は、落下の危険性を最も感じやすい作業の一つであると思いますが、日常化すると感覚麻痺が起きてしまうのでしょうか?
立派に安全管理を実施されている会社もありますが、
『現実的には様々な競争の中で建物の窓ガラスクリーニングを受注して⾏くので、価格でなく安全作業の遂⾏能⼒を重視して業者選定を⾏う機会は⼤変少ないのが実情となっています。』という価格重視の受注の現状を訴える業者サイドの意見があります。
羽生田さんのような「急がない。ユックリでもいいから自分のペースで--」という価値観を持ち、指導をしてくれる経営者に恵まれればいいのですが、十分な安全教育を受けず、また危険防止に関する経営の方針を示されないというケースが多いのではないかとも思われます。
発注条件を示す側にも配慮が必要と思いますが、効率主義、儲け中心主義は、いったん事故が発生すれば大きな損失となって返ってくるという「言い古された真実」を繰り返し心する必要があります。