重森雅嘉先生はその著書「ヒューマンエラー防止の心理学」(日科技連)の中で、「創造的安全」という視点を示されています。
せっかく作った安全の手順が遵守されないという問題も生じている。
ある程度完璧な手順が確立され、それを遵守すれば事故が防げる可能性が高いにもかかわらず、実際には手順どおりに行われずに同じような労働災害や事故が繰り返し発生している。
この場合、手順自体はある程度完璧であるため、その後の事故防止対策としては「手順を遵守しましょう」と注意するしかない場合が多い。
しかし、なぜ、せっかくの完璧な手順が遵守されないのだろうか。
完璧を目指した安全手順を遵守することができない理由の1つは、私たちが限りある時間の中で作業を行っているからである。
これは従来から効率と安全のトレードオフ(効率と完璧さのトレードオフ)として知られている問題である。
とにかく、事故防止対策が導入された当初は、効率が低下しても何とか手順に従おうとする。
しかし、日々の効率の圧迫から逃れることは難しく、結局しばらくすると面倒で完璧な手順は遵守されなくなり、同様の事故が再発するということが繰り返される。
人が有限の時間を生きている以上、世の中は非効率を無限に許容することはできないのである。
効率要求を無視することができず、完璧な手順の遵守が不可能である以上、管理的安全による完璧な安全の実現は不可能なのである。
すべてのことを想定した完璧な手順を作ることもできず、完璧に近づけようとしてできるだけ細かな作業手順を作れば遵守できないという2つの致命的な問題のために、管理的安全の考え方では安全な職場は実現しない。
それでは、これまで目指してきた管理的安全が実現できないのであれば、私たちはどのような安全を目指したらよいのだろうか。
以上のような疑問点をもとに「創造的安全」について展開されています。
ここにおいて先生が指摘されている内容については、思い当たる方も多いのではないかと思います。