汚水槽の槽内点検・清掃は定期的に実施されるべきものです。
建築物衛生管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)における特定建築物においては、環境衛生管理基準に年2回の槽内清掃が定められています。
また、補修作業等での槽内へ入る機会も発生します。
そのような汚水槽への入槽における「硫化水素中毒」の災害報告はよく耳にします。
場合によっては死亡事故にもつながるため、事前の準備も含めて十分な注意が必要です。
災害の典型的なパターンは次のようなものです。
- 第1作業者が(硫化水素の溜まった)槽底へ下りていき、作業を始める。
- その作業者が「気分が悪くなる」或いは「倒れる」等の状況が災害事象が発生する。
- 他の作業者が救助に向かい、その人も被災する。
<この災害の原因として以下のような事項が挙げられます。>
- 事前の硫化水素濃度の測定が不十分であった。
--事前の槽の深さ、形状データをもとに、硫化水素ガスの発生を想定して、測定個所を明確にしておく必要があります。
--地下槽などの密閉に近い槽へ入る場合は、硫化水素の測定以外に、酸素濃度、一酸化炭素、可燃性ガス等の測定が必要です。 - 汚水槽の残留汚泥の量、堆積状況を事前に把握していなかった。
--清掃時の汚泥の撹拌による硫化水素の発生を考慮しておく必要があります。
--また、入口より奥の方、或いはポンプの吸い上げ口より離れた位置に汚泥が溜まっていることも考えられます。 - 換気装置を使用していなかった。
--換気装置を準備していても、入口での測定でガスの発生等がみられなかった場合、使用しないことも考えられます。
--また、槽内の換気空気の流れも考慮しておく必要があります。 - 救助における二次災害の認識が希薄であった。
--救助者には空気呼吸器等の保護具を着用させる必要がありますが、そこまで想定しておらず、保護具の準備不足が考えられます。
--最初に槽底に入る作業者に救助ロープを装着させる等の配慮も必要です。
<同種災害の防止対策としては、上記原因への対応とともに、次の事項が挙げられます。>
- 有害ガス等の測定方法等を明確にしておくこと。
--測定位置や測定回数といった測定方法を明確にし、測定結果の記録も含めて作業標準化しておくこと。
(許容濃度は10ppm:目の粘膜の刺激下限界) - 換気装置の使用の励行
--入槽前測定で異常が検知されない場合であっても、堆積汚泥の撹拌によりガスが発生する可能性があります。
十分な換気量を確保しつつ槽内作業を行う必要があります。 - 作業者には、空気呼吸器を使用させるか、異常を検知できる小型測定器を携帯させる。
- 槽内作業状況が分かる安全な場所に監視員を配置しておく。
- 二次災害の防止措置を事前に検討しておく。
--救助者用の空気呼吸器等の呼吸用保護具を備えておくこと。
--被災者は、垂直タラップを昇ることができないため、救助のためのロープやはしご等を備えておくこと。 - 安全管理体制を確立し、実効化しておくこと。
--槽内作業を実施する事業場において、酸素欠乏危険作業主任者を選任し、作業を指揮させること。
--槽内作業者全員に、酸素欠乏/硫化水素中毒に関する特別教育を実施すること。
※作業経験からくる「慣れ」や、以前大丈夫であったという「思い込み」には注意!