⑧“設備の経年劣化”とその対策<2>

前号に続けて、厚生労働省の「設備の経年化による労働災害リスクと防止対策」について、
建築設備管理の観点より、トラブル対応及びその要点についてピックアップしていきます。
勿論、建築設備管理においても、そこで働く設備員の労働災害防止は最優先事項ですが、その内容は設備管理におけるトラブル対応にも適用できます。

【経年化設備による労働災害防止のための対策】として下記が示されています
ピックアップして列記してみます

○設備面からの対策
  • 経年化設備の劣化に起因する災害リスク防止
    付帯設備(階段、はしご、手すり、歩廊、作業床等)は事後保全としている事業場が多くありますが、設備全体が高経年化しており、経年化による設備の劣化は高所からの重篤な墜落転落災害などの原因となります。
    付帯設備では、中長期的に更新時期を定めた予防保全に切り替えていくことが望まれます。
    ※設備裏面での作業、或いは修理・清掃等非定常作業時における作業経路等についての注意。
  • 経年化設備の故障に起因する災害リスク防止
    経年化設備では、設備の種類にもよりますが、点検や修理、計画外停止の回数が増加する傾向があり、危険点近接作業が増加します。
    ガードやインターロックなどの安全防護及び付加保護方策などの工学的対策を管理的対策に優先して講ずることを検討して下さい。
    計画外停止を減少させるための予防保全的対策としては、回転機械の状態基準保全にIoT技術を利用した異常兆候の検出、設備診断技術(例:熱画像診断、カメラや無線を利用した遠隔監視、ドローンを活用した立入困難箇所の点検など)を用いた損傷や故障の予兆診断なども活用が期待されます。
    共同作業者や第三者が確認できない場所で設備の点検作業、修理作業等の非定常作業を行う時は、誤って電源を入れて、設備が起動し作業中の作業者が被災することを防止するための方策(ロックアウト・タグアウト等)を講じて下さい。
    ※異常時対応、非定常作業時の事前検討。
  • 保護方策不備に起因する災害リスク防止
    設置時に講じた保護方策が時間の経過により現在の安全水準からみて不十分なものとなった結果、「保護方策の不備」が生じている設備については、計画的に改修することにより、本質安全保護方策や安全防護などの工学的対策の強化を推進して下さい。
    設置スペース、予算などの問題から安全防護が困難である、あるいは直ちに対策工事を実施することが困難である等の理由から安全防護の実現に時間が掛かる場合は、暫定的な安全措置を施し、特別管理作業として管理し計画的に改修を進める必要があります。
    ※本質安全保護方策については、設計・計画段階での対応が主となると思いますが、管理の立場おいても、可能な範囲にはなりますが、工学的対応の検討が必要となるケースもあります。
○管理面からの対策
  1. 経営トップの関与
    経営トップが安全最優先の経営方針を表明するとともに、安全活動に積極的に関与して、経営面や予算面からも活動を先導して下さい。
    ※バックアップ体制も含めて、組織としての対応、特に経営トップの姿勢が不可欠です。
  2. 災害リスク潜在要因の認識が不足
    設備の経年化に起因する災害リスク要因への認識不足が潜在的災害リスクとなることが懸念されます。
    経年化設備は相応の劣化があること及び古い安全基準で設計されていることを認識した上で、リスクアセスメントを行い、リスク低減対策を実施して下さい。
    十分な安全防護策が実施できずにレベルの高いリスクが残った場合、特別管理作業などに指定して作業の安全を確保して下さい。
    ※リスクアセスメントの実施、及び残留リスクへの管理面での対応が不可欠です。
  3. 労働安全衛生マネジメントシステムの導入や活用
    災害発生率は、労働安全衛生マネジメントシステム導入によって約半減しているという調査結果があります。
    労働安全衛生マネジメントシステムを導入することが望まれます。
    ※建築設備管理における、マネジメントシステム活用の検討。
  4. リスクアセスメントの重要性
    危険源に対して、ハード対策を優先して講じることが重要です。
    評価結果が実情と合わない、ハード対策が優先されていないなど不適切なリスクアセスメントとなっていないか確認して下さい。
    指針に基づくなど適切な方法により評価することや、専門人材の育成と実施者への教育・訓練が重要です。
    重篤な労働災害発生の可能性が想定できる場合は、発生確率が小さい場合でもリスクレベルが高くなるような評点システムにすることが望まれます。
    作業者の危険回避能力や経験によって危険を回避できるとして、また、管理的対策のみによって、リスクレベルを低く評価することは好ましくありません。
    ※リスクアセスメントの必要性
  5. HH活動、KY活動などの重要性
    ヒヤリハット(HH)活動を行う意義には、抽出された労働災害リスクが潜在する作業、行動、設備の不具合を改善すること及び作業者がヒヤリハットを想定すること、気掛かりなことを提案することで、危険感受性を高め、安全意識を高めることなどがあります。
    事業場内全員(事業者・社員・協力会社員)がヒヤリハット活動に参加することで安全意識が高まります。
    作業や職場に潜む危険性や有害性などの危険要因を事前に摘出して、災害を防止するための安全行動を考える危険予知(KY)活動は、災害防止に大切な活動です。
    グループで行う4RKY(4ラウンドKY)が効果の大きな方法として推奨されます。
    ※有効なHH活動、KY活動の展開が望まれます。
    *HH活動:実際に体験したヒヤリハット(インシデント)だけでなく、想定されるヒヤリハットも含まれます。
    *KY活動:リスクアセスメントに基づく残留リスクへの活用を主として考えるべきです。
○作業者・作業面からの対策
  1. 経験年数の短い作業者の労働災害防止
    安全水準が古い経年化設備では、作業者の経験に基づくノウハウに依存する点が少なくありません。
    当該職場での在籍年数が短い作業者では、年齢に関わらず労働災害が発生しています。
    経験年数の短い作業者を対象とする教育・指導を行って下さい。
    教育・指導の方法としては、例えば、KYTの実施、OJTによる一人作業及び一人KYの指導、作業前の指示・段取りの指示、作業終了時の反省等の日常の作業管理サイクルなどの実施などがあります。
    一方で、ベテランでも過信や使命感に基づく労働災害が増えていることから、ベテランへの安全教育も継続的に行って下さい。
    作業従事者の習熟度認定や作業手順書の改訂、安全意識のテストによる確認や危険体感教育の実施なども効果的です。
    ※建築設備管理においては、経験年数の浅い人、また比較的高齢の方も多いと思われます。
    上記のような教育訓練の検討が必要です。
  2. 協力会社の労働災害防止
    協力会社の社員に未経験者、外国人の比率が高くなっていることを踏まえて、労働災害防止の観点から、協力会社員の安全教育の重要性が増してきています。
    元方事業者による協力会社への安全上の指導を今まで以上に強化することが望まれます。    ※外部専門業者による工事等において、施設管理者側での対応についても同じです。
  3. 付着異物の除去や清掃作業時の労働災害防止
    付着物除去作業を減らすために、以下のような措置を講ずることを検討して下さい。
    • 自動化、遠隔化などの設備の追加、更新
    • 発生源対策(原材料を付着しにくくする、飛来する付着物を抑制する)
    • 新規設備、設備改造時に危険作業を減らす、付着を減らすよう設計変更(例えば付着箇所の形状変更)
    • 安全防護(防護柵、防護カバー、セーフティエリアセンサ、インターロック付可動防護柵など)の設置
      なお、運転を停止できない場合は、以下のような措置を講ずることを検討して下さい。
      いずれの措置を講ずる場合も、作業手順書の整備とそれに基づく教育は必要です。
    • 危険源に接近しないで付着異物を除去する方策(治具の開発・改良、除去方法の見直し、自動洗浄装置の導入など)
    • (自動洗浄等での付着物除去もできない場合)付着異物除去作業の特別管理作業への指定、作業者を限定かつ二人以上の共同作業とすること

      ※建築設備管理においても援用できる内容です。

以上分かり易く設備経年劣化への対応策が説明されています。

<参考>設備経年劣化による災害リスクとその防止