“モノを売ってはいけない” “相⼿に出向いて⼼の⼿を差し伸べる”

刃物の商売をIさんはしていた。
昭和30年代、何をやっても儲かった時代を経験した。
しかしその後、社会は⼤きく変わっていった。
機械化が進み、Iさんの商売も直撃を受け、在庫が増えていく。

ある講習会で聞いた「鉄には熱処理すればこうなるという法則があるが、“⼼”にも同じような法則がある」という講師の⾔葉が記憶に残っ た。

研究熱⼼なIさんは勉強を続けていくうちに、また次の⾔葉に出合う。
「これからはモノの作り⽅が変わります。
⼈の⼿で作らなくても、機械がモノを作ってくれる時代がやってきます。
そうなったら⼈は何をすれ ばいいか。
⼼のお世話をするのです。」

Iさんはその後、新たな扱い品に取り組んだが、⼀向に売れない!
このような中、ある先輩が助⾔をしてくれた
「私たちの商売はモノを売ってはいけないんだよ。」
「相⼿の所に出向いて、⼼に⼿を差し伸べるんだよ。」
Iさんは以前聞いた「“⼼”にも法則がある」という⾔葉を思い出した。

永遠に続くと思っていた刃物の商売は時代と共に姿を消し、湯⽔のように湧いて出た⾦もなくなった。
⼿元には「モノ」は何も残らなかったが、Iさんが悲しむことはなかった。
⾃分がこれから向き合う⽅向を知ったからである。

「以来、私はモノを売る商売はしていません。
すべてお世話をさせて頂くという⼼でやってきました」
とIさんは⾔う。

Iさんの⼈⽣の⽅向を決めた先輩からの⾔葉。
それを素直に受けとめたIさん。
そして、Iさんの実⾏⼒。
⼈の本当の⼒とは[考え⽅]×[能⼒(経験・知識)]×[実⾏⼒] と⾔われますが、Iさんにはこれらが備わっていて、それも人生の長いスパンで継続されています。
しかし、これは現実は非常に難しいことです。
--当筆は深くそう思います。−
Iさんの活動はAI時代が到来しても通用すると思います。
まさに “ただならぬ街中のオジサン” です。