⑤ リスクアセスメントの手法について

リスクアセスメントの一般的な手順は、簡略にまとめますと次のようになります。

①【対象とする建築物に存在する維持管理におけるハザードの洗い出し】

建築設備の管理においては、個々の設備機器に関する専門業者が存在しますが、管理という視点で、事故事例・ヒヤリハット事例・手順書等をもとに、事故/故障/トラブル等に関して潜在する危険性又は有害性要因(危険源)を洗い出していきます。
この危険源の洗い出しを徹底することは、今まで認識されていなかった(管理面で抜け落ちていた)作業を見い出すという点でも重要な意味を持ちます。

②【洗い出した危険源についてのリスクの見積り・評価】

リスクの大きさについての認識を深めて(見積りして)いきます。
リスクの大きさの見積り評価軸としては、一般的には「各危険源により受ける被害の重篤度」と「各危険源による危険事象の発生頻度」が使われますが、建築設備管理においては評価軸としては「影響度(経済性・対象人数等)」「発生頻度」「回避可能性(対応能力・組織他)」が考えられます。

③【リスク対応策(低減対策)の検討・実施】

原則として、見積り・評価されたリスクの大きなものから順にそれぞれのリスク対応策(低減対策)を検討していきます。
(簡単に対応できるものは、即実施します)

各リスクについての対応策は、下記の順序を基準として検討していきます。

  1. 法規等の基準があり、それに適合していない場合は、まずそれらへの適合を第一にします。
    設備管理関係の規定は細かく定められている場合が多く、手落ちのないように注意する必要があります。
  2. 対象となった危険源について関連する事項の変更等の可能性を検討します。
    手法・手順或いは材料の変更等によりリスクを低減できないかをまず検討してみます。
  3. 次に設備面等で対応できないか検討します。
    工学的手法等を用いて、空間的或いは時間的な危険源からの隔離等により、設備機械的な方法で対応できないか検討します。
    (技術専門性を必要とするケースが多いと思われます)
    また、異常時の停止スイッチ等の設置或いは操作位置についても検討します。
  4. 以上の検討を十分にしたうえで、対応できない(残留リスクとして残る)場合は、次の解決策として管理的対応を検討していきます。
    (実際は、このケースが多いと思われます。)
    管理的対応は、各種の手法が採用され実施されていますが、「作業者個人としての対応策」と「組織としての対応策」に分けて考えることができます。
    具体的には、各作業者への教育訓練等、組織としてのバックアップ体制の構築等が考えられます。
    (各種管理ノウハウ、組織の経営方針等が大きく影響してきます。)
④【管理計画への落とし込み】

以上の検討結果(リスク対応策)を管理計画(年間・月間等)に組み込んでいきます。
PDCAのマネジメントサイクル形成、特に「C(check)」がポイントとなります。
そして、このマネジメントサイクルを回して、管理のレベルアップを図っていくということになります。


なお危険源の洗い出しにおいては、リスクアセスメント指針通達による下記のような分類例が参考となります。
(この分類は、各事業場の特性を考慮した現場で使いやすい独自のものでも可能です。)

危険性又は有害性(危険源)の分類の例
<危険性>
  • 機械等による危険性
  • 爆発性の物、発火性の物、引火性の物、腐食性の物等による危険性
    「引火性の物」には、可燃性のガス、粉じん等が含まれ、「等」には、酸化性の物、硫酸等が含まれること。
  • 電気、熱その他のエネルギーによる危険性
    「その他のエネルギー」には、アーク等の光のエネルギー等が含まれること。
  • 作業方法から生ずる危険性
    「作業」には、掘削の業務における作業、採石の業務における作業、荷役の業務における作業、伐木の業務における作業、鉄骨の組立ての作業等が含まれること。
  • 作業場所に係る危険性
    「場所」には、墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所、足を滑らすおそれのある場所、つまずくおそれのある場所、採光や照明の影響による危険性のある場所、物体の落下するおそれのある場所等が含まれること。
  • 作業行動等から生ずる危険性
  • その他の危険性
    「その他の危険性」には、他人の暴力、もらい事故による交通事故等の労働者以外の者の影響による危険性が含まれること。
<有害性>
  • 原材料、ガス、蒸気、粉じん等による有害性
    「等」には、酸素欠乏空気、病原体、排気、排液、残さい物が含まれること。
  • 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による有害性
    「等」には、赤外線、紫外線、レーザー光等の有害光線が含まれること。
  • 作業行動等から生ずる有害性
    「作業行動等」には、計器監視、精密工作、重量物取扱い等の重筋作業、作業姿勢、作業態様によって発生する腰痛、頸肩腕症候群等が含まれること。
  • その他の有害性