組織事故・トラブルのメカニズム ①

樋口晴彦氏の文献「なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか」は、組織事故・トラブルについて非常によい教訓を示されています。
それをもとに、少し深耕させていただきたいと思います。

組織内弱者への対応

受託企業や組織内弱者を配慮せずに、効率性追求やコスト削減を進めることは、業務内容の質的劣化を引き起こす。

⇒受託企業や組織内弱者の立場にある人とのコミュニケーションに気を配り、その業務内容についても配慮する必要がある。

強いリーダーシップの方向性

強いリーダーシップの下、人為的に新しい組織文化を形成する場合、人為的であるが故にバランスを欠いた歪なものとなってしまう危険性も存在する。

リスクの近視眼的対応

事故・トラブルを起こした企業が、それに対応した再発防止対策を過剰に推進し、他の態様の事故・トラブルへの対策が疎かになって、新たな問題が生じてくる場合がある。

⇒限られた資源の枠内で、企業を取り巻くリスクにそれぞれどの程度対応していくかのバランス感覚が求められる。
また、過剰な文書作成による「コンプライアンス疲弊」の問題も取り上げられることも多い。

現場の繁忙化とコミュニケーション不足

人員削減と各担当者の業務量の増加が厳しい経営環境下で行われている。
加えて、外部スタッフへの依存も増える傾向にある。
そして、これらが相重なって、スタッフ間のコミュニケーション不足・教育不備等による事故・トラブルへとつながっていく。

正当性獲得行動のジレンマ

不祥事の発生により社会的批判を受けた企業は、社会的正当性を回復するために再発防止対策を進めることが急務となる。
ところが、一般の人々は情報量や専門知識が不足しているため、不祥事の原因についての世間の認識が、本当の原因と異なっていることが少なくない。
こうした場合に企業側としては、社会的正当性の回復が必要である以上、世間が認識している原因への対応を優先せざるを得ない。
さらにその対策は、素人である一般市民にも分かりやすいものでなければならないため、監視機能の強化や手続きの追加などに偏りがちである。
「○○対策室の設置」「監視対策を増やす」「△△マニュアルの作成」などである。(横浜国立大学の佐藤准教授の指摘)

⇒マスコミの偏向報道!
「よく分からないことは専門家に任せる」という当たり前のことを探究せず、「素人」の感情論をあおることを「民主的」とはき違えている一部マスコミの報道。

人事の長期配置は不正の温床となる

人事が閉鎖的になれば、人間関係が濃厚になりすぎて、内部統制機能が劣化する傾向を強めることとなる。
(特に、閉鎖的傍流事業において、この傾向が強まる。)

アウトソーシングのリスク認識

コストが安いというだけで業務委託先を選択しない注意が必要。

⇒業務委託先を監督するノウハウを自社に保有する。
(業務委託先に対する監督が困難な場合は、アウトソーシングを止めるという選択肢も考慮する。)
⇒信頼できる企業であれば、多少割高でも、トータルコストの観点から十分採算が取れるという認識を持つべき。

組織目標間のトレードオフへの対応

組織の目標間でトレードオフの関係が生じることは避けられない。
そのような場合、より具体的に成果が現れる目標に関心が集中し、コンプライアンスや安全に関わるような数値化できない目標は後回しにされがちである。

⇒そのような場合を想定して、事前に価値基準を明確にし、関係部署に周知しておくことが必要。
(経営者或いは担当部署上司の見識・価値観が影響する課題)

成果主義を機能化させるには--

成果主義をうまく機能させるには、優れた管理能力が必要とされる。

⇒官公庁の入札においては、主に価格により決定がなされる。
業務品質よりも、「安かろう悪かろう」の決定がなされることもなりかねない。
発注者側の仕様履行状況のチェックがなされてはじめて、その入札の実効性が出てくるというケースもあるのではないかと考える。

非効率で手間の掛かる作業はその内容が次第に変質していく傾向にある

作業環境を含めて、非効率な作業は監督を強化するとともに、その作業の改善に努める必要がある。

⇒設計段階で、その作業の効率性や維持管理性に十分配慮することが望まれる。
(本質安全性設計の検討他)

技術の陳腐化、維持管理ノウハウの喪失への対応

技術の陳腐化(法令の変更等も含む)、ベテラン技術者の退職、経営合理化による技術者の減少等により、既存設備への対応ノウハウの喪失には注意が必要である。

⇒この課題に関心を寄せる経営者は少ないのでは---

クレーマー問題への対応

消費者や利用者のクレームには、誠実に対応すべきである。
しかし、クレームの中には、事実無根或いは一方的な主張、著しく過大な要求、業務を阻害するほどの執拗な反復など理不尽なケースもあり得る。
このようなクレーム対応に、担当者が神経をすり減らさないように、周囲関係者のサポートが必要である。

⇒周囲のサポート体制の整備確立(例:クレーム担当部署の設置)、弁護士等の専門家の活用等

リーダーシップの不在問題

リーダーシップの不在は、不祥事を誘発しなすい環境をつくり出し、また起きた問題を深刻化(増幅)させることにもつながりかねない。

⇒日常の業務判断が現場に委ねられ、その上級の管理者がリーダーシップの発揮に慣れていないと、ここぞという時に組織が回らないかダメージを受けることになる。

OJTの問題点(弱点)

OJTには次のような弱点傾向が挙げられている

  • 実務の繁雑さに紛れて、教育そのものが忘却される
  • 個々の教養担当者の能力に教育内容が左右される
  • 教育担当者が関心を持つ事項に教育が偏向する
  • 非定常的な業務に関する教育が不足する
  • 作業内容に関する教育(know-how)が中心となり、その根拠や理論(know-why)についての説明が不足する
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⇒安全管理の基本的事項に関しては、抜け落ちを防ぐためテキストを用いた座学の方が適している場合がある。
また、OJTで教える内容についても、伝承の過程で内容が変質していないかチェックする必要がある。